日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P010
会議情報

発表要旨
狭山丘陵の水環境に関する水文地理学的研究
-河川源流域の汚染源を中心に(2)-
*乙幡 正喜小寺 浩二
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

Ⅰ はじめに

 新河岸新河岸川流域は、かつて水質悪化が顕著な地域であったが、近年は流域下水道や親水事業で水質が改善しつつある。しかし、狭山丘陵に位置する支流の上流部においては依然水質が改善していない地域も存在している。2年間にわたる狭山丘陵周辺の河川調査結果を基に、汚染源の特定について追加調査を実施し、水質を中心とした水環境の特徴を考察する。

Ⅱ 対象地域

 狭山丘陵は、東京都と埼玉県の5市1町にまたがる地域である。丘陵の周辺地域は高度経済成長期に都市化が急速に進んだ地域である。河川のほとんどは新河岸川水系に属する支流で、狭山丘陵はそうした水流の源流部である。今回の追加調査地点は、柳瀬川水系の六ッ家川上流部と空堀川中流域の2ヶ所である。

Ⅲ 研究方法

2017年11月から2019年10月まで合計24回実施した既存調査の整理と検討を行った上で、汚染源の特定のため2020年6月と12月に6地点の追加調査を実施した。現地では、水温、気温、電気伝導度(EC)、COD、pHおよびRpHを計測し採水して研究室に持ち帰り、再度CODの計測を行った。

Ⅳ 結果・考察

 既存調査においてECは、全体として100−300μS/cm前後の地点が多かった。柳瀬川水系の六ッ家川上流部と空堀川中流域の新宮前一の橋では、一時期2500μS/cm以上の高い数値を示している(図1)。CODは、全体として4−6㎎/L前後の地点が多かった。空堀川中流域の新宮前一橋で8mg/L以上であった(図2)。このためこの2流域で追加調査を行った。2020年6月の調査結果は、六ッ家川上流の北野天神前橋でECは497μS/cm、CODは3.0であり、12月のECは810μS/cm、CODは4.0であった。この河川の上流部は、2007年に埋め立てが終了した一般廃棄物最終処分場である。この処分場に排水溝(YM0)があり、その流出水のECは6月が674μS/cm、CODは3.4であった。12月のECは1732μS/cm、CODは2.0であった。この地点の6月と12月を比較するとECは約3倍と高い数値を示している。

 空堀川流域では、新宮前一の橋・上水橋で平均900μS/cm前後の高い数値となっている。2020年6月の調査結果は、中流域の中砂橋で151μS/cm、下流の東芝中橋で1955μS/cmを示した。さらに下流の新宮前一の橋で1620μS/cmという高い数値あった。CODは中砂橋で3.0、東芝中橋で8.0、新宮前一の橋で4.5であった。

 2020年12月の調査結果は、東芝中橋(KH3)で847μS/cm、新宮前一の橋で840μS/cmという数値あった。CODは東芝中橋で6.0、新宮前一の橋で8.0であった。東芝中橋の水温は21.7℃と冬季としては高い数値を示している。東芝中橋の脇に放流口があり、市内にある乳製品製造工場の排水である。この排水は、環境基準を満たしているとのことである。

Ⅴ おわりに

 六ッ家川上流では廃棄物最終処分場の水質がECに影響し、空堀川では中流域でEC,CODが乳製品工場排水の影響で負荷が高まっている。今後も継続調査を行い、主要溶存成分の分析結果を研究に反映させたい。 

 参 考 文 献

森木良太・小寺浩二(2009):大都市近郊の河川環境変化と水循環保全—新河岸川流域を事例として—. 水文地理学研究報告, 13, 1-12.

著者関連情報
© 2021 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top