日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P045
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発表要旨
整備新幹線は北東北と九州をどう変えたのか
開業10年目の検討
*櫛引 素夫竹内 紀人大谷 友男永澤 大樹
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抄録

1.はじめに

 整備新幹線路線である東北新幹線・盛岡以北は2020年12月、九州新幹線・鹿児島ルートは2021年3月に全線開通10周年を迎えた。この間、2011年3月に東日本大震災が発生、東北新幹線は大きな損傷を被り、開業直後の九州新幹線も旅行自粛の余波を受けた。また、2020年頭からはCOVID-19が世界的に拡大し、新幹線ネットワークにも各地の社会・ビジネスに多大な影響が及び続けている。このため、2つの新幹線は、効果・影響を10周年の節目で論じる上で、大きな困難を抱えている。

 本研究においては、発表者らが東北新幹線・盛岡以北の全線開通10周年に合わせて2020年12月4日に開いたオンライン・フォーラムでの報告・検討事項を中心に、北陸・北海道新幹線にも言及しながら、新幹線が地域にもたらした変化の意味、評価方法、COVID-19が新幹線ネットワークの将来像に及ぼす影響について検討する。

2.東北新幹線・盛岡以北の概観

 JR東日本の公表資料から2010年度と2019年度の数字を比較すると、東北新幹線の利用者は盛岡−八戸間で34.6%、八戸−新青森間で29.5%増加している。同じく、2010年度と2018年度の首都圏−青森県エリアの旅客流動(新幹線+航空機)をみると、292万人から337万人へ15%延びた。シェアはこの10年間、新幹線78%、航空機22%とほぼ変わっていない。

 全線開通に伴い、新青森−東京間が3時間弱で直結されたほか、新青森−仙台間が1時間半、新青森−盛岡間は48分に短縮された。これらの時間距離は、ビジネスパーソンや旅行者の意識や行動を大きく変えていると推測される。また、青森県は人口減少に見舞われているにもかかわらず、地域経済はわずかながら拡大しており、生産性も向上している。これらの事実は、新幹線の存在抜きには考えづらい。

 ただし、東日本大震災の影響もあり、発表者らも、住民の行動の変容や経済的な効果に関する定量的・網羅的な調査は十分には実施できていない。地元負担分の建設費の返済は今後も続くため、効果を追求するために、より適切な調査法と活用法を検討していく必要がある。

3.九州新幹線・鹿児島ルートの概観

 九州新幹線は東京につながっておらず「ドル箱」の需要がないこと、JR九州の本社が地元にあり、地域に密着した意志決定が可能な体制があることなど、東北新幹線との相違点がある。東京に直結しないハンデは、一方で、短編成・多頻度の運行体制を確保し、ゆとりのある車両空間を創出することで、乗車機会の拡大が図ることができた。その結果、九州域内流動の増加をもたらしただけでなく、関西や山陽との間のlocal to localの需要を掘り起こした。

4.法人課税所得額の分析

 各地の税務署別の法人課税所得額を分析すると、北海道新幹線開業に伴い、2016年度の函館税務署管内は536億円と過去20年間で最高を記録した。しかし、翌年度以降は再び減少に転じ、当地で進む人口減少の影響がうかがえる。

 東北、九州新幹線の全線開通時に加え、北陸新幹線の開業時について同様の比較をすると、青森県全体では全国平均とほぼ同水準で推移し、新幹線開業の好影響を見いだせない。熊本(市内2署合算)、鹿児島も似た傾向にある。一方、北陸新幹線沿線では金沢の好調ぶりが際立つ半面、富山が伸び悩んでいた様子が示されている。

5.展望

 整備新幹線は開業直後こそ経済効果が観光客数などにわかりやすく現れるが、時間の経過に伴い関連する変数が増え、影響の判別が難しくなる。加えて、動向を継続的にフォローする主体も少ない。さらに、COVID-19の影響が地域経済やJR各社のビジネスモデルに深刻なダメージを及ぼし続けている。

 今後、2024年春には北陸新幹線の敦賀延伸、2031年春には北海道新幹線の札幌延伸が控えている。地域経済における各産業の必要性やCOVID-19の影響を念頭に、産業・企業別の分析を適切に進め、リモートワークの普及、往来と対面の新たな価値、交流人口や関係人口など、COVID-19時代への向き合い方を考えていく必要がある。

参考文献:あおもり新幹線研究連絡会(2019)「九州、北陸新幹線沿線の変化の検証に基づく、北海道新幹線の経済的、社会的活用法への提言」(青森学術文化振興財団・2018年度助成事業報告書)、▽櫛引素夫(2020)「新幹線は地域をどう変えるのか」(古今書院)▽櫛引素夫(2020)「『コロナ時代』」の整備新幹線ー影響の速報的な整理とオンライン研究・検討の実践報告」、青森大学付属総合研究所紀要、22(1)

(2020年度青森大学教育研究プロジェクト事業)

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