主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2021年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2021/03/26 - 2021/03/28
I はじめに
東シベリアの永久凍土地帯では,20世紀後半以降の温暖化により,サーモカルストと呼ばれる凍土融解に伴う地表面の沈降が進んでいる(Fedorov et al. 2014).地表面の沈降やそこでの湖沼の発達は,ロシア・サハ共和国の人々の生活にも様々な影響を与えている.
サハ共和国には,2020年時点で約97万人が居住しており,首都かつ最大の都市であるヤクーツクは約31万の人口を抱えている.近年のヤクーツクの人口は増加傾向にあり,市街地の拡大によって永久凍土の融解・荒廃現象が人間の生活環境にさらなる影響を与えるものと考えられる.そこで,本研究では,凍土荒廃現象の人文・社会的影響評価のための指標データの構築を目指し,その最初の段階として,サハ共和国における2000年代以降の人口動向について,ロシアにおける州・共和国・地方レベルおよび,サハ共和国内における自治体レベルでそれぞれ整理する.
II 分析に用いるデータ
分析に用いるデータは,1989年,2002年,2010年に実施されたロシアの国勢調査結果と,サハ共和国がウェブサイト上で公開している2011〜2020年の自治体別の推計人口や住宅面積に関する統計データである.まず,国勢調査結果に基づいて,全国的な人口動向におけるサハ共和国の位置付けを確認したうえで,サハ共和国内における自治体別の人口動向や市街化の進展状況を国勢調査やサハ共和国の統計資料をもとに分析する.なお,データの地図化にあたっては,OpenStreetMapの行政界のデータを主に用いる.
III ロシア全体およびサハ共和国の人口の推移
国勢調査結果によれば,ロシア全体の人口は1989年から2010年にかけて減少傾向にある.サハ共和国では,1989年から2002年にかけては12.2%の減少となったものの,2010年までの8年間にはわずかながら増加している.都市人口率は,ロシア全体で73%程度であり,1989年から2010年までに大きな変化はない.サハ共和国はロシア全体よりも都市人口率が低く,1989年に66.7%,2002年に64.3%,2010年に64.1%と,若干の低下傾向にある.
IV サハ共和国内の自治体別人口の推移
図1は,サハ共和国内に400余りある2020年時点の自治体別に,2020年の推計人口と,2002年の国勢調査人口に対する2020年の推計人口の比率を示したものである.ヤクーツクおよびその近郊と,ヴィリュイスク,ニュルバ周辺で,人口が多く,増加傾向も顕著である.2007年以降の住宅の延べ床面積の推移をみても,これらの地域では面積の増大が進んでおり,市街地の拡大がみられるものと考えられる.
V おわりに
2000年代以降,サハ共和国全体では人口は停滞気味であるものの,ヤクーツクなどの一部の都市では人口増加が続いている.また,ヤクーツクやその周辺地域では,人口の増加とともに市街地の拡大傾向もみられ,今後,凍土荒廃による市民生活への影響はより大きなものになると予想される.今後は,衛星画像の分析や可能であれば現地調査を行うなどして,さらなるデータの分析を進めていく計画である.
[文献] Fedorov, A. N., Gavriliev, P. P., Konstantinov, P. Y., Hiyama, T., Iijima, Y. and Iwahana, G. 2014. Estimating the water balance of a thermokarst lake in the middle of the Lena River basin, eastern Siberia. Ecohydrol. 7: 188-196.
[付記] 本研究は基盤研究A「凍土環境利用と保全に向けた凍土荒廃影響評価の共創」(19H00556,代表者:飯島慈裕)による研究成果の一部である.