日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 234
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発表要旨
高齢者の外出状況における地域間格差
*鈴木 美佳
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抄録

はじめに 日本の高齢化率は増加傾向にあり2040年には全都道府県で25%を超える見込みである.すなわちどの地域においても,高齢者が安心して暮らせるような地域政策の検討が求められている.現状では加齢に伴う外出率の低下が指摘されており,歩道上の段差や傾斜,休憩場所の不足などが原因として挙げられている.外出頻度の低い高齢者は,身体・心理・社会的な側面で健康水準が低いという研究結果もあり(藤田ほか 2004),高齢者が気軽に外出できるまちづくりは健康寿命の延伸に寄与するといえる.

先行研究の検討と本研究の内容 高齢者の外出行動に関する先行研究はある特定の都市をとりあげ,その地域における外出行動の特徴や傾向を分析したのち,公共交通や都市計画に対して改善策を提案しているものが目立つ.手法としてはPT(パーソントリップ)調査などのデータに基づく定量的な分析やアンケート調査による定性的な分析が主だが,多数の都市を横並びに比較している研究はあまり見られない.本研究では,全国で一斉に行われる全国都市交通特性調査(2015年)のデータに基づき,当調査の対象である70都市を分類する.当調査を用いることで同条件下で各都市を比較可能であり,外出行動における地域差を容易に把握することができる.その結果から高齢者の外出率が高い地域と低い地域の特徴を分析し,複数の都市についてさらに詳細な調査をおこなう.本報告では都市の分類結果とその考察までを主に述べる.

全国都市交通特性調査に基づく都市の分類 全国都市交通特性調査(2015年)のデータに基づき,70都市に対して因子分析を行ったところ五つの因子が観測され,累積寄与率は五つ目までで86.2%であった.因子得点に基づきクラスター分析(Ward法)を行った結果,四つのクラスターに分類された.各クラスターの特徴を以下に述べる.クラスター1には23都市が分類され,人口・人口密度ともに四つのクラスターの中で二番目に大きい.トリップ距離は短く,移動手段に占める徒歩分担率,自動車分担率のいずれも二番目に高い.クラスター2には9都市が分類され,人口密度と外出率は一番低く,トリップ距離は長い.クラスター3には17都市が分類され,人口密度は二番目に低いが外出率はクラスター1と同程度である.自動車分担率は一番高く,徒歩分担率は一番低い.クラスター4には21都市が分類され,大半は三大都市圏内の都市である.外出率は一番高く,75歳以上人口の割合は一番低い.鉄道,バス,徒歩,自転車の分担率は一番高く,特に鉄道と徒歩の分担率はそれぞれ他のクラスターの約6倍,約2倍である.各クラスターに属する都市の都市類型(国土交通省の分類に基づく)は,クラスター4を除き,目立った特徴は見られなかった.

都市分類に関する考察 以上の分析結果からこれまで指摘されてきた,大都市ほど高齢者の外出率は高いという特徴(国土交通省 2017)が確認できた.これらの都市と他の地方都市の違いは移動手段に占める鉄道,徒歩分担率の点で明確に表れており,公共交通の利便性と,徒歩圏内における店舗網の充実度が影響していると考えられる.地方都市の中でも外出率に差があり,クラスター1〜3に属する都市について,自転車分担率は外出率と正の相関が,75歳以上人口割合は負の相関がそれぞれ有意にあったことから,高齢の人ほどあまり外出をしない傾向が確認できる.しかしこれらの傾向にそぐわない都市もいくつかみられる.今回使用した調査データの高齢者に関する集計項目では,外出目的が通勤,業務,私事(買い物,食事,通院,送迎,その他の五つからなる)に分類されており,詳細な外出目的と外出率の関係を探るのは難しい.今後の研究では娯楽目的での外出に注目し,趣味活動や地域行事といった娯楽の有無,それらの活動場所までの行きやすさが高齢者の外出行動にどう影響するのかを調査する予定である.

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