主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2021年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2021/03/26 - 2021/03/28
1.はじめに
高度経済成長期に行われた国主導による画一的な大型施設の整備やリゾート開発は,都市部から離れた地域に基幹産業の衰退や少子高齢化をもたらした。こうした中で,これまでの画一的な地域振興策を見直し,地域独自の自然・人文環境などの地域資源を保全し,地域の魅力を高めてこれを活用することによって,地域外から人を呼び込み,地域内外の交流を促進して,地域経済を活性化させる地域づくりのあり方が模索されている(岡村 2009)。しかしながら,地域づくりに係る既往研究においては地域特性の差異が十分に考慮されておらず,一般論的に議論が進められてきた。それゆえに,地域の個性を活かした地域づくりを目指すためには,地域特性の違いを十分に考慮し,それぞれの地域に適した地域づくりの形を検討することが不可欠である。
本研究の目的は,北海道中川町の化石と地域博物館「エコミュージアムセンター」を活用した地域づくりを事例として,地域資源の観光利用に至る過程と地域づくりに携わった組織間の相互関係から地域づくりの意義と課題を明らかにすることである。調査では2019年9月,2020年2月に中川町の地域づくりに携わる主要組織である役場,教育委員会,商工会,観光協会において聞き取り調査を実施し,組織の相互関係について尋ねた。
2.研究経過
発表者のこれまでの研究では,アンケート調査により町への来訪者の地域資源に対する意識を分析してきた。その結果,来訪者の多くは化石の見学を目的として訪れており,化石を活用した地域づくりの意義が確認された。
3.化石の観光利用に至る過程
中川町には白亜紀の地層が広く分布し,アンモナイト化石が多く産出する。1950年代より基幹産業が衰退していく中で,クビナガリュウ化石が相次いで発見されたことにより,化石を地域づくりに活用する動きが本格化した。1995年に化石の里づくり構想が提唱され資料館の設立と専門職員の配置が目指され,役場企画課に化石と中心とした地域資源を町内外に発信する拠点「化石の里づくり推進室」が設置された。設置が目指された資料館は予算の関係から既存施設の改修が検討された。同時期に町の中心部から離れた佐久地区の中学校廃校が決定し,地区の衰退が危惧されていた。住民による佐久地区振興策の早期実施の要望に町長が応じ,佐久地域をエコミュージアムと位置付け,その中核施設として中学校を再活用する方針が示された。エコミュージアムとは地域のあらゆる資源を保存し地域住民自ら調査・研究し学習していく考えに基づく博物館であるが,中川町ではこの考えを取り入れ化石の里づくり構想はエコミュージアム構想に改められた。2001年には施設の運営・管理を担うボランティアグループ「エコール咲く」が結成され,佐久地区の住民が積極的に参加した。翌年「中川町エコミュージアムセンター」が開館した。2003年の選挙による町長の交代により,エコール咲くメンバーに複数存在した前町長の支持者が脱退し,化石を活用した地域づくりの勢いは失われた。現在エコール咲くはメンバーの高齢化に直面している。
4.主体間の相互関係
化石を活かした取り組みは,2000年に化石の里づくり推進室が教育委員会に移行して以来現在も教育委員会が担っているが,他の組織による様々な取組みも行われている。協力体制については,役場が各組織に予算を出す構造の中で,役場に対する不信感が一部でみられた。化石やエコミュージアムセンターにかかる取り組みとの関わり方についての質問では,「化石」という資源そのものの扱いづらさの存在が明らかになった。しかし一方で,どの組織も「地域振興」という同じ目標を持っていることも分かった。
5.考察
化石という地域資源は,地域外から人を呼び込む資源としての意義があることが見出された。各組織が「地域振興」という同じ目標に向かっていることも確認できた。しかし一方で,地域づくりを担う組織からは「化石」の扱いづらさのほか,組織間の不信感もみられた。これは化石が専門知識を持たない者には理解し難い資源であることに起因すると考えられる。化石が町全体の資源であることを再認識し,理解を深めた上で,地域資源としての利用としての政策を講じていくことが重要であると考えられる。