日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P029
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発表要旨
併設タイプ別の介護保険関連施設の立地特性
―徳島市を事例に―
*畠山 輝雄
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抄録

1.はじめに  

 2000年の介護保険制度導入以降,全国的に介護保険関連施設が増加してきている。他方,3年に一回の制度改正に伴い,ニーズや制度的課題に合わせてさまざまなサービスが新設され,施設が建設されてきた。  これらの施設については,そのサービス特性に応じて立地に特徴があり,また地域的偏在も見られる。このため,これまで地理学ではその立地の特徴について,ナショナルスケールおよびローカルスケールの双方から多くの研究蓄積がなされてきた。例えば,施設サービスでは杉浦(2005)など,通所型サービスでは畠山(2005)など,地域密着型サービスでは宮澤(2021)などが挙げられる。  しかし実際には,特定サービスによる施設が単独立地するケース以外に,複数のサービスが併設されて立地する施設も多く見られる。これらを踏まえて通所型サービスを中心とした併設タイプ別に立地分析した研究は見られるものの(三島ほか2016),全サービスを対象とした併設タイプ別の立地分析はなされていない。  そこで本研究では、市街地から農村部まで多様な地域特性を持つ徳島県徳島市を事例に,介護保険関連施設の立地特性を併設タイプ別に明らかにすることを目的とする。  分析方法は,徳島県が公表する「介護保険法における指定事業者一覧R040501」の所在地データをベースに,徳島県介護サービス情報公表システムなどの法人データを使用し,3次メッシュ別人口集積状況や都市地域区分別に集計した。

2.介護保険サービスの種類と立地特性  

 介護保険サービスには,介護を必要とする要介護者対象の「介護給付」サービス,介護が必要ではないものの日常生活に不便をきたす要支援者対象の「介護予防給付」サービス,要支援者と要介護状態になる恐れの高い状態の2次予防事業対象者が対象となる「地域支援事業」サービスに主に分けられる(2022年度時点)。介護給付と介護予防給付には,施設で生活する「施設サービス」と自宅でサービスを受ける「居宅サービス」、主に認知症高齢者を対象とした「地域密着型サービス」などがある。さらに、居宅サービスや地域密着型サービスの中でも、施設に通う「通所型サービス」や自宅でサービスを受ける「訪問型サービス」などがある。  施設サービスは,大規模用地を必要とするケースが多い。また,利用者は施設で生活するため,必ずしも集客のために人口集中地域に立地する必要はない。しかし,通所型サービスは利用者を送迎する必要があり,訪問型サービスは専門職が利用者宅へ訪問する必要があるため、効率的なサービス提供のためには,ある程度高齢人口が集中する地域に立地する必要がある。また,訪問型サービスはサービス提供場所が利用者宅となることから,マンションの1室などのわずかなスペースに事務所機能を置くことで事業が可能となる。このように,サービスの性格によって立地因子や立地条件が異なっており,サービスの地域差や偏在が生じる。

3.併設タイプによる立地特性  

 徳島市では,訪問型や通所型の単独タイプは,人口が集中する地域に多く立地しており,訪問型サービスでその傾向がさらに強い。一方で,入所型(施設サービス)は人口集中地域から非集中地域まで全体的に立地する。この理由には,前述した立地因子・条件が影響している。 併設タイプの施設では,「入所,訪問」や「入所,訪問,通所」などの入所型に居宅サービスが併設される場合には,サービス効率性を重視して入所型の単独施設よりも,より人口が集中する地域に多く立地する傾向にある。

 本研究は,科研費補助金(基盤研究(B)「ローカル・ガバナンスにおける地域とは何か?地方自治の課題に応える地理的枠組みの探究」20H01393,代表者:佐藤正志)を使用した。

参考文献

杉浦真一郎2005.『地域と高齢者福祉―介護サービスの需給空間』古今書院.

畠山輝雄2005.介護保険通所型施設の立地と施設選択時における決定条件―武蔵野市の事例―.人文地理57(3):100-114.

三島幸子・中園眞人・小峰まど香・孔 相権・山本幸子2016.介護保険制度導入前後の高齢者通所介護施設の地域的供給特性の比較―山口県における運営主体に着目した立地特性分析―.日本建築学会計画系論文集81:1463-1471.

宮澤 仁2021.『都市高齢者の介護・住まい・生活支援 福祉地理学から問い直す地域包括ケアシステム』明石書店.

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