日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 232
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発表要旨
大雪山国立公園における無管理のキャンプサイトの裸地化を削減する対策についての提言
*王 婷渡辺 悌二
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抄録

はじめに

 山岳国立公園では,登山や野営などのレクリエーション活動が盛んに行われている。キャンプサイトでは頻繁な利用により植生が損失し、裸地が生じる。裸地拡大や混雑問題が生じないように、キャンプサイトの利用レベルと荒廃状況を把握した上で、適切な管理を行うことが必要である(Marion et al. 2018)。

 大雪山国立公園は北海道の中心部に位置している、日本の代表的な山岳国立公園である。高山帯には12の野営指定地が設置されている。野営利用は6月末から9月末まで可能となっている。黒岳野営指定地、白雲岳野営指定地と裏旭野営指定地の3カ所が公園内で最も利用者の多いエリアに位置していて、代表的な野営指定地となっている。環境省の公園計画によって野営指定地以外では野営は禁止されている。この国立公園の野営指定地は実質的な管理のない、無管理のキャンプサイトとして位置づけられている。ところが、これらの野営指定地の利用レベルと荒廃状況は、ほとんど把握されていない。

 本研究の目的は、1)12カ所の野営指定地の裸地および「トイレ道」を検出すること、2)代表的な3つの野営指定地(黒岳・白雲岳・裏旭)を対象に、利用レベルに基づいてその持続可能性を分析することである。本研究では、野営指定地の利用レベルを把握するために、ラプスカメラを使用した。

研究方法

 ArcMap10.8.1にてジオリファレンスした2017年撮影の空中写真を用いて、12カ所の野営指定地について、裸地やトイレ道をマッピングし、裸地の面積を測量した。2019年7月12日から9月25日まで、黒岳・白雲岳・裏旭野営指定地においてラプスカメラを設置し、各野営指定地の写真を1時間ごとに撮影した。写真をもとに、毎晩のテント数をまとめた。

裸地・トイレ道の分布

 各野営指定地の裸地面積は46 m2~3603 m2である。2つ以上の離れた裸地が見られた野営指定地が8カ所ある。裸地化したサイト数が一番多い南沼野営指定地では12本のトイレ道を検出した。黒岳・白雲岳・裏旭で生じた裸地の面積は、それぞれ394 m2、776 m2、1898 m2である。

黒岳・白雲岳・裏旭野営指定地の利用状況

 黒岳・白雲岳・裏旭野営指定地の年間利用レベルは、それぞれ61泊、59泊、41泊である。一晩の平均テント数は、黒岳キャンプ場が最も多く (約10張り)、裏旭キャンプ場が最も少なかった(約2張り)。混雑した日には、黒岳野営指定地周辺の登山道にもテントが張られていた。2019年の調査期間に全部で4回、31張りのテントがはみ出した。最も混雑した日に黒岳野営指定地では、各テントの占有面積は平均でわずか8.8 m2であった。一方、裏旭野営指定地では、1つのテントが平均146.0 m2を占有していた。

 このように、空中写真判読の結果、偏った幕営利用が確認された。COVID-19の影響を受け、テントを張る際にほかのグループから離れようとする傾向があるため、今後は黒岳野営指定地でのテントのはみ出しの問題がより頻繁に発生する可能性がある。このまま無管理の状態が続くと「大雪山国立公園では、12カ所の野営指定地以外に登山道上を含めてどこでも野営利用が許される」という間違ったメッセージが、利用者間に広まる可能性が高い。一方、最も訪問者の少ない裏旭野営指定地では、裸地が必要以上に拡大していることが確認された。野営指定地の中央付近に複数のガリーができて、これが裸地拡大の原因の一つであるかもしれない。

問題解決への提言

 大雪山国立公園の野営指定地では、トイレ道の発達、裸地拡大や過剰利用などの問題が確認された。これらの問題は野営指定地の持続可能な利用に悪影響を及ぼしている可能性がある。利用ピーク時に予約制を導入することにより、黒岳野営指定地のはみ出し問題は解決できる。複数の離れた裸地を持つ野営指定地(例:裏旭野営指定地)の持続可能性を高めるために、維持管理(例えば、ガリーの地形補修)を行った上で、利用を集中させることを検討する必要がある。これらの管理対策の導入により、裸地やトイレ道などの野営インパクトを削減することが期待できる。

引用文献

Marion, J. L., Arredondo, J., Wimpey, J. and Meadema, F. 2018. Applying recreation ecology science to sustainably manage camping impacts: A classification of camping management strategies. International Journal of Wilderness 24(2): 84–101.

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