日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 216
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発表要旨
衛星降水観測からみた北東ユーラシアの夏季降水特性
*飯島 慈裕
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キーワード: GPM, KuPR, 降水強度, 雨滴粒径, 寒冷圏
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抄録

1. 研究背景・目的

 北半球高緯度の寒冷圏陸域では、5~9月の夏季降水(主として降雨)ならびに10~4月の冬季降水(主として降雪)の季節性がある。年降水量の約7割以上は夏季降水が占め、主要な水資源になるほか、植生の蒸発散を介して大気へフィードバックし、周辺の気候にも影響を与える。他方、冬季降水は積雪として地表面に春まで蓄積され、融雪流出のピークの原因となるほか、土壌水分として持ち越される気候メモリとして大気-陸面過程の要素となる。

 中でも降水量は、基本的かつ最重要な気象要素であるにも関わらず、中低緯度に比べた気象観測点の粗さから、ユーラシア大陸上での寒冷圏陸域の降水量の空間分布は不確定性が依然として非常に高い。その中で2014年に打上げられたGlobal Precipitation Measurement(GPM)主衛星による降水観測は、当該地域の環境変動研究にとって空間的な降水情報を得られる重要な観測データである。

 本研究は、シベリア・モンゴル・日本の地上検証観測地域において、GPMが観測する降水データから、降水タイプごとの降水分布、降水粒径等の違いについて解析した。

2. 手法・使用データ

 GPMの観測開始以降の2014年3月~2020年12月について、KuPR レベル2バージョン06Aプロダクトに基づき、北東ユーラシア降水検証の地上観測地域として東シベリア(2地域)、モンゴル(10地域)、日本(5地域)におけるGPM降水衛星の降水観測事例数をまとめた。降水特性として、検証観測地点最近傍のグリッドを中心とする7×7グリッド(約35km四方)の降水強度(precipRateESur-face)と雨滴粒度パラメータ(Dm)、降水タイプ(Type Precip)を中心に地域間の比較を行った。

3. 結果と考察

 地上検証観測地域では、7年間の観測で、各地点で29(最小)~90(最大)事例の降水イベントが抽出された。各月でみると最も事例数が多いのは7月であるが、地点によっては9月の事例数が最も多い場合があった。高緯度で観測頻度の高いシベリアの2地点の5~9月の事例数が多く、年降水量が300mm程度と少ない割には観測事例が多い特徴があった。一方で、同様に内陸乾燥気候であるが、北緯40~50度のモンゴルでは事例数が非常に少ない傾向にあった。日本は50事例以上あり、陸別で事例数が少なく、中部山岳の3地域や鈴鹿山脈・大台ケ原は各月まんべんなく事例が得られた。

 対象のうち6地域について、すべての対流性の地上降水があったグリッドについての降水強度と雨滴粒径パラメータDmの関係を示す。DmはYamaji et al. (2020)にならい、Clutter Free BottomのBin高度の値を用いた。

 東シベリアの2地域(SpasskayapadとElgeeii)は、対流性降水で降水強度とDmに正の相関関係があり、3~5mmに達する事例が含まれる場合と、相対的に小さいDm(1~2mm)で降水強度が20mm/hrを超えて大きくなる事例が確認された。対流性降水は全降水の6-7%程度であった。

 モンゴルの2地点(Selbe UB、Bulgan)は、対流性降水にシベリアと同様の2種類の関係性が確認されたが、大きなDm値(3mm以上)の事例は少なかった。一方で、対流性降雨の割合は約10%で多かった。シベリア・モンゴルでは圏界面付近まで達する深い対流も観測された。

 日本の2地域(陸別と鈴鹿山脈・朝明)は、シベリア・モンゴルの地域とは異なり、Dmが3mmを超える対流性降水はほとんど見られなかった。一方で、層状性降水では、Dmは1~2mmでばらつきが小さく、降水強度は高い傾向にあった。層状性降水で降水強度が10mm/ hrを超える事例が日本の2地域ともシベリア・モンゴルの地域より多かった。

 以上から、GPMが7年間で観測した夏季降水事例数はいまだ限られているものの、対流性降水を中心に降水強度と雨滴粒径の地域性が確認された。

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