日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 241
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発表要旨
トンガ大噴火「潮位変化」による津波警報後の避難行動
奄美市職員へのアンケート調査に基づく速報
*岩船 昌起安部 幸志
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抄録

【はじめに】2022(令和4)年1月15日13時頃のトンガ沖海底火山大噴火に伴い,20時頃から潮位変化が日本沿岸全域で生じた。23時55分に奄美市小湊で高さ(潮位偏差)1.2 m(変更後134㎝)が観測され,気象庁は、16日0時15分に津波警報を奄美群島・トカラ列島に発表した。これを受けて,奄美群島市町村では0時18分~0時32分に避難指示が発令され、報道機関等で「高台への避難」が強調された中で,未明に住民避難が行われた。本稿では,奄美市職員へのアンケート調査を用いて,今回の津波警報発表にかかわる避難行動等を検証する。

【方法】奄美市総務課危機管理室の協力により,奄美市専用電子システムを活用して,津波避難行動等にかかわるアンケート調査を5月23日~6月2日に行い,奄美市職員123人からの回答を得た。なお,欠損値等の一部で,他の回答から推測可能な箇所については補填した上で分析を行う。一方,住所の記述から,国土地理院基準点や地形や街区構造を参考に,自宅立地面および居住床面の推定標高を0.1 m単位で見積もる。3分の1程度で番地未記入等もあり,また基準点間の間隔が広い箇所もあり,推定標高の値については,精度に違いがある。

【結果1】 質問項目ごとにいくつか列記する。問1 自宅の標高を知っているか。知っている33%,知らない67%。問2 津波警報等を最初に,何で知ったか。携帯電話65%,防災行政無線25%,テレビ5%,家族(同居+別居)4%,未回答1%。問3 津波警報等を,いつ知ったか。気象庁発表(0時15分)後41%,避難指示発令(0時18分)後59%。問5 津波警報を知った場所。木造家屋1階29%,木造家屋2階以上24%,鉄筋造1階2%,鉄筋造2階以上12%,RC造1階6%,RC造2階以上24%,車の中1%,未回答2%。問10 津波警報等を知って,どのくらいの時間で移動(避難)開始したか。5分以内23%,30分以内43%,1時間以内3%,1時間以上2%,移動しなかった29%。問11 どこに避難したか。高台避難59%,避難所3%,隣人宅2階以上10%,自宅2階以上6%,自宅等で寝床等から動かず20%,その他1%。問14 避難時の移動手段は,何か。車50%,自動二輪2%,徒歩17%,移動せず30%,その他1%。問15 どのくらいの時間で避難(移動)完了したか。5分以内29%,10分以内18%,20分以内11%,30分以内8%,40分以内1%,1時間以内1%,1時間以上2%,移動しなかった30%。問16 いつ自宅等に戻ったか。1時過ぎ3%,2時過ぎ7%,3時過ぎ2%,4時過ぎ3%,5時過ぎ2%,6時過ぎ5%,7時過ぎ13%,避難指示解除7時30分過ぎ29%,自宅に残った33%,他の場所に移動3%。

【結果2】自宅立地面の推定標高は3 m以下67人,3 m超5 m以下28人,5 m超10 m以下14人,10 m超10人であり,居住床面の推定標高は3 m以下7人,3 m超5 m以下31人,5 m超10 m以下45人,10 m超33人である。また,問1で回答された「自宅の標高」と,筆者が判断した自宅立地面の推定標高との関係は,y = 0.73x + 0.99(R2=0.489)である。「自宅の標高」を,やや低く認識している傾向がある。

【考察】問1より,自宅の標高を知らない人が過半数を占め,結果2の相関関係式との関係から,知っている人でも自宅の標高を低めに認識している可能性がある。標高への住民意識が低いこと,標高掲示版が1 m単位で表示されていること等が,理由として挙げられる。 自宅立地面の推定標高3 m以下が67人と低いものの,居住面の推定標高3 m以下が7人であったことから,立ち退き避難により,標高が低い路上で,生身のまま津波に遭う可能性が高い避難環境にあることが分かる。問11より,立ち退き避難系73%(89人)であり,既に津波が到達している状況下で立退き避難を行っているために,津波警報通り「最大3 m」の津波の襲来があれば,危険な状況に遭っていた人が一定数いたと考えられる。そのまま自宅にとどまり,2階以上に垂直避難する等を選択した方が緊急安全確保につながる避難行動であったと思われる。

【おわりに】今回の津波警報による避難行動では,津波が既に到達している状況下で,立ち退き避難系が4分の3程度いた等,実態の一端が把握された。本発表では奄美市職員対象の内容を紹介したが,同様のアンケート調査を喜界町,龍郷町,宇検村等でも実施しており,質問項目ごとの回答の違い等について,地域とのかかわりも含めて,今後考察する。

<謝辞>奄美市総務課危機管理室には,アンケート調査にご協力いただいた。

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