日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P001
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発表要旨
木曽川デルタの前進とデルタフロント堆積物の粒度
*堀 和明中村 倫太朗若杉 拓弥
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抄録

はじめに 河口域にみられるデルタはプログラデーションによって海側に拡大していき,デルタに土砂を供給する河川も延伸していく.ある地点を対象としたとき,プログラデーションにともなって,プロデルタからデルタフロントにかけて堆積物が粗粒化(上方粗粒化)していくことは広く知られている.これに対し,陸側から海側に向かってデルタフロント堆積物にどのような粒度変化がみられるかについては不明な点が多い.本研究では,プログラデーションにともなうデルタフロント堆積物の粒度変化について,木曽川デルタを対象に検討する.

調査対象地と方法 木曽川デルタは,縄文海進時に伊勢湾北部に広がった内湾が,木曽川,長良川,揖斐川によって運搬される土砂によって埋積されることで発達してきた.デルタは,下位からプロデルタ,デルタフロント,デルタプレインの堆積物で構成される.デルタを構成する堆積物は既存の沖積層層序において南陽層に相当し,沖積層の区分(井関,1983)ではプロデルタが沖積中部泥層,デルタフロントが沖積上部砂層,デルタプレインが上部砂層および頂部陸成層にほぼ相当する.羽佐田(2015)によると,沖積中部泥層の分布は現河口から約33–39 kmの範囲に限られる.  国土交通省中部地方整備局木曽川上流河川事務所および同下流河川事務所が木曽川,長良川,揖斐川沿いで実施した堤防地質調査などにおいて採取された多数の試料および発表者らが木曽川デルタで採取した既存の3 本のオールコア堆積物について粒度分析をおこなった.堤防地質調査では通常1 m毎に標準貫入試験が実施され,標準貫入試験用サンプラーで得られた試料の一部(ペネ試料と呼ばれる)が保管されているため,粒度分析間隔は1 mとした.各試料については2 mmおよび63 μmの篩を用いて,礫,砂,泥の含有率を算出した.また,プロデルタからデルタフロントに向かって泥分含有率は低下していくため,泥分含有率が50%となる深度を内挿法によって求めた.篩い分けで得られた砂を対象に,画像解析式粒子径分布測定装置(Retsch社製CAMSIZER XT)を用いて粒度分布を測定し,中央粒径を求めた.オールコア堆積物についてもペネ試料と同様に1 m 間隔で粒度分布を測定した.

結果と考察 以下では,沖積中部泥層(プロデルタ)が認められた地点の分析結果について述べる.プロデルタからデルタフロントに向かって泥分含有率が50%となる層準は,場所によって異なるものの,現海面下10–15 mに認められることが多い.この結果は,Niwa et al. (2011)や堀ほか(2014)とも調和的である.この層準はボーリング柱状図の記載において砂と泥の境界にほぼ相当している.また,この層準付近の砂の中央粒径は多くの地点で0.1–0.2 mm程度となっており,特徴的な粒度変化は陸側から海側に向かって認められないことから,デルタフロント下部における堆積過程に大きな変化はなかったと推定される.  デルタフロント堆積物を構成する砂の中央粒径は,泥分含有率の小さい層準において最大値を取るが,最大でも0.8 mm以下であった.木曽川においては中央粒径の最大値が河口から25 km前後を境にして,それより上流では粗粒(0.4 mm以上),下流では細粒となる傾向がみられた.この原因として,プログラデーションにともなう河道の延伸によって河床勾配が減少し,粗粒土砂が河口に供給されにくくなった可能性や,デルタフロント上部における堆積環境の違い(たとえば主河道からの距離)などが挙げられる.一方,揖斐川や長良川沿いでは木曽川沿いに比べて,全体的に最大粒径が大きい傾向にあった.また,流下方向に沿った最大粒径の変動が大きいことから,養老山地から合流する支流からの堆積物の影響も受けていると考えられる.

謝辞 本研究は科研費(課題番号:21K18397)および国土地理協会(第17回学術研究助成)の助成を受けたものである.

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