日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 518
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発表要旨
地方税収確保における課税権の領域と広域連携
*佐藤 洋
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抄録

Ⅰ はじめに

 地方財政制度における地方自治の根幹は課税権にあった(宮本1994)とされる.課税権とは地方税法で定められた,自治体が地方税を賦課・徴収する権利である.日本では,課税権の領域は自治体の領域と一致する.たとえば,都道府県はその領域内の住民や法人,固定資産などの課税客体を対象とした県税を,同様に市町村は市町村税を賦課・徴収している.明治以来の日本の地方自治制度は中央集権的であり,自治体がもつ課税権の範囲(税目や対象)は狭小であった.また,自治体が国の関与を受けずに税目や税率などの課税要件を決定できる権利である課税自主権の拡大も,戦後まで実現しなかった.海外ではフランスなど一部の国々において,広域連合体が課税権を有する事例が散見されるが,日本における課税権は広域連合や一部事務組合などでは認められず,都道府県および市町村に限定される.

 2007年の地方分権推進に伴う税源移譲により国から市町村へ3兆円が配分されたことは,地方政府に対する課税権の強化と解釈できる.しかし,現在の日本では人口減少・高齢化が進行し,特に歳入に占める地方税の割合が高い大都市圏の自治体では,効果的な税収確保策を検討する必要性が増している.しかし,課税額の多寡には人口規模や法人立地などの地域特性が大きく影響し,自治体が実行可能な施策にも限界がある.それでもなお,税収確保策を検討すると,自治体が単独で施策を行うことの限界に直面すると考えられる.自治体による公共サービスでは,スケールメリットを生かすことを目的として市町村間,あるいは市町村と都道府県間の広域連携が活用されてきたが,地方税の税収確保を目的とした広域連携の導入は一部の自治体に限られる.また,地方分権は国家の領域性の変化の一つとされ,山﨑(2012)などの研究蓄積があるが,課税権が有する領域性までは十分な議論がなされていない.以上を踏まえて,本稿では課税権の領域とその影響について整理し,現行の地方税法と課税権において可能な,税収確保に向けた広域連携について検討する.

Ⅱ 分析対象と研究方法

 地方財政状況調査や国勢調査をもとにした計量分析,国内外の文献や行政資料の渉猟とともに,東京大都市圏における自治体など行政機関へのインタビュー調査を行った.

Ⅲ 結果と考察

 地方税の徴収における課税権の影響を検討すると,東京大都市圏では低徴収率地域が都県境に存在し,当該地域の自治体では,人口流動性の高さに起因する住民の転出に伴う徴収の難しさが,徴収率の低下に影響するという認識をもつ.実際に,住民の5年移動率や他都県転出率の高さが徴収率に負の影響を及ぼし,自治体の徴税費を増加させている.また,2000年代以降,日本では一部の自治体が地方税滞納整理機構などを設置し,徴収業務の共同化を進めてきたが,都道府県を超えた連携はみられない.

 一方で,課税における共同化はほとんど進んでいない.その理由として,市町村または都道府県以外の組織が課税権を持たないため,自治体が共同で課税できないことの影響が大きい.京都地方税機構などの一部組織では,法人住民税の申告書受付業務などの課税関係業務も行っているが,課税権は構成市町村にあり,税の納付先も市町村である.

 日本では課税権の領域が自治体の領域と結び付いていることが課税と徴収の双方に問題を引き起こす一因であると考えられる.現行の課税権で可能な,課税額を増やすための広域連携と,都道府県を超えた形での徴収率向上に向けた広域連携の方向性について検討していく必要がある.

参考文献

宮本憲一1994.分権化時代における地方財政論の課題.日本地方財政学会編『分権化時代の地方財政』67-83.勁草書房.

山﨑孝史2012.スケール/リスケーリングの地理学と日本における実証研究の可能性.地域社会学会年報24:55-71.

謝辞

 本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費(課題番号:21J21401)の助成を受けた.

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