日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 433
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発表要旨
加納城下町における市街宅地地租改正事業の様子
*飯沼 健悟
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抄録

はじめに

 令和元年,約50年にわたり停滞していた名鉄名古屋本線の名鉄岐阜駅―岐南駅間の高架化事業について,岐阜県・岐阜市・名古屋鉄道の3者により事業覚書が締結され,令和4年2月岐阜市は国土交通省から都市計画事業としての認可を得た。その計画の概要には,高架化に併せて統合される駅の新設,その周辺における土地区画整理事業があり,それら地域には,江戸期における加納城下町の土地区画の景観を今でも残す地域が含まれている。つまり,明治初期に行われた市街宅地における地租改正事業の様子を確認できる稀少な地域が含まれている。

 土地境界の確認において,市街地となっている地域は,地価が高く,土地境界が抱える問題も複雑な権利関係に起因するものがある。そのため,非常に慎重且つ適正な判断が求められている(飯沼2019)が,大規模事業等により市街地地租改正という希少な事例が失われていく前に,その作業の様子を明らかにしていく必要がある。 本報告では,加納城下町の景観が残り,かつ明治初期の地籍図類が現存する地域について調査をし,市街宅地における土地境界とその周辺問題との関係を考察したい。

加納城下町の景観を残す地域

 加納城下町の多くは,昭和初期に行われた耕地整理事業,昭和20年岐阜空襲による戦災復興区画整などの区域に取り込まれていること,加えて,岐阜市における地租改正事業の資料が乏しいことから,城下町当時の土地区画の景観が残り,かつ資料が現存する地域は加納南広江町,加納新町,加納柳町,加納安良町及び加納八幡町の約7haのみが確認できた。

加納城下町の地引絵図

 市街地における丈量手順は明治9年(1876)3月7日公布の「市街地地租改正調査法細目」で確認ができる。 同細目第1章第1節において「丈量にあたっては,1カ町の周囲を測量して面積を求めておき,次に各宅地についての実測し,その合計と1カ町総面積との合致を検討するという仕方」(佐藤1986)とある。 岐阜市役所に保管されている旧厚見郡加納町にある安良町の地引絵図(作成年不明)は,三斜法により丈量が行われているが,距離が寸単位まで測定され,それは丁寧な調査が行われている。(飯沼2019)

現在の測量技術による調査との比較

 加納城下町において,現在の測量技術で調査した成果を地引絵図と対査することで,当時の測量技術の考察を試みることは可能である。そして,「市街地宅地では100坪に対して2坪,即ち2%を土地丈量の許容誤差として認定」(塚田1986)されているその許容誤差が,そのように調査がされていることを実証することもできる。これにより,現在の登記記録の基礎となっている明治初期の地租改正事業の成果が土地境界問題に与える影響が考察でき,その検証は大変有益であると考える。 また,明治期の地籍図は法務局に備え付けられる旧土地台帳附属地図の基礎となっているため,その作製がどの程度丁寧に行われていたのかを検証することも同様である。

今後の課題

 加納城下町において、明治期の景観が失われていく恐れがある今,早急に明治期に行われた調査を確認し,その検証結果により,現在の登記記録の基礎となった地租改正事業の成果が,近年の市街地における土地境界が抱える問題にどのように対応できるのか,それら問題にどれくらい影響を与えるかを考察することを今後の課題としたい。

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