日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P013
会議情報

発表要旨
福島県の復興に向けた熱環境評価の事例
*平野 勇二郎一ノ瀬 俊明吉田 友紀子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

東日本大震災において福島県では原子力発電所事故が発生し、放射性物質汚染の影響により多くの地域住民が長期にわたる避難生活を強いられることになった。国立環境研究所は東日本大震災における被災地の環境回復と復興を支援するため、放射性物質の環境中における動態の解明や生物・生態系への影響評価、復興まちづくり支援などの多角的な研究を進めてきた。

 本研究は福島県を対象とした居住・生活環境の一環として、熱環境評価を行った事例を紹介する。熱環境の評価は生活者の居住快適性や、冷暖房エネルギー消費、熱中症・ヒートショックの発生と関連する重要な要素である。とくに復興まちづくりの過程では、被災地の帰還者に向けた情報発信だけでなく、他地域へ展開するための立地条件評価としても重要である。

 温熱環境の評価には、例えば不快指数、WBGT、PMV、SET*など数多くの指標が提案されている。ただし、福島県は寒冷地であるため、暑熱ストレスだけでなく寒冷ストレスも対等に評価できる指標を選択することが適切である。そこで本研究では国際生気象学会が提唱している温熱環境指標であるUTCI(Universal Thermal Climate Index)を選択した。UTCIは人体熱収支・体温調節モデルを利用し、人体スケールの生気象リスク・シミュレーションにおいて近年利用事例が増えつつある。

 UTCIを算出するために必要な気象要素を得るため簡易の気象シミュレーションを行なった。シミュレーションは月別に行い、月別・時刻別のデータを得た。気象シミュレーションのデータからUTCIを算出した。計算には地上気温、放射温度、相対湿度、スカラー風速の計算結果を用いた。この結果から、夏季は盆地の気候の特性として中通地域と比較し会津地域が高温化しやすいことや、海の熱容量の効果により冬季は浜通りが温暖であることなどが示された。

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top