日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S305
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発表要旨
自然地理教育の実践から明らかになった課題とそれをふまえた環境防災教育への展望
*須貝 俊彦山野 博哉南雲 直子長谷川 直子
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抄録

1. はじめに 2022年4月に、必履修科目「地理総合」の授業が始まった。開始年度に出版されたすべての「地理総合」の教科書(5社、A~Fの6種類)を対象に、学習内容を調べ、各社が公開している推奨シラバス案を参照した結果、1学期に自然地理、2学期に地球環境問題、3学期に防災を学ぶ生徒が多いと予想された。 そこで、数名の高等学校社会科地理教諭にご協力いただき、1学期の自然地理学習終了後にロングインタビューを実施して、「地理総合」を教え始めて明らかになったことや、2,3学期に向けての課題について調査することにした。シンポジウムでは、調査結果を整理し、「地理総合」における自然地理教育の現状と課題、および、それをふまえた防災環境教育への展望について中間報告する。

2.インタビューのねらい 「地理総合」は、始まったばかりであるが、実施体制が定まり、生徒の反応や学習達成度を現場で確認できる状況にある。加えて、従来の系統地理(「地理A」)の柱の一つであった地形・気候を中心とした自然地理学習が、既に進められている。系統地理的な知識や考え方は、2学期以降に展開する防災・環境教育、国際理解教育、持続可能な開発のための教育(ESD)の地理学的基礎として位置付けられるべきものである。災害脆弱性の克服、温暖化対策、自然資源の持続的利用などの課題学習を深めるための科学的な枠組みとして、地形・気候等で構成される自然環境システムや生態系の概念を分かりやすく教授することが求められる。 こうした新たな位置づけによって、従来の学習では気づかなかったポイントや重視すべき内容を、1学期の終了にあわせて仮総括し、「地理総合」の学習効果を高めるうえでの留意点を明らかにすることをねらいにする。

3.インタビュー調査の内容 以下の内容を中心としたインタビューを行う。 ① 勤務先での地理教育体制 ② 「地理総合」になって変わった点 ③ 1学期に自然地理を教えた感触、反省 ④ 2学期以降の環境や防災に向けての準備状況 ⑤ 補助教材として必要なもの ⑥ 大学教育や地理学界へ期待すること 今回の調査の規模は限定的であるが、私立、公立(都立、県立、国立)、共学、別学、中高一貫など、多様な高等学校の先生方に協力いただく予定である。系統地理学習を基礎に、1年間かけて、防災教育やSDGs学習を展開していく新しい教授方法を確立するための重要な局面にあると考えられる。そこで、今回の調査では、「地理A」「地理B」の教授経験を有し、地理を専門とされる先生方の意見を伺うことに主軸を置いた。 まずは、あるべき姿をクリアにして、次のステップとして、歴史や公民の先生が「地理総合」を受け持つことに起因する課題や、すべての生徒の学習意欲を高めるための工夫など、現場が抱える諸課題へのアプローチを考えたい。

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