日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P022
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発表要旨
福岡市都心部における地下街の役割と変化
天神地下街を事例として
*安田 奈央
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抄録

地下街は,主に二つの機能を持ち,一つは公共通路的機能,二つ目は百貨店や地上商店街のような商業機能である. 地理学では,主に商業機能に着目した研究が行われてきた(杉村1983).公共通路的機能が地下街の商業機能の特徴に深く関係していることが示唆されたが,管見の限り地理学における地下街研究は山澤(1986)以降行われておらず,現代における地下街の実態は明らかにされていない.

 そこで,本研究では地下街の内部の変化と都心における地下街の役割を明らかにすることを目的とし,地下街の周辺施設とも関連づけながら考察する.また,地下街という公共的かつ商業的空間における人々の利用形態の変化を考察する.地下街の公共通路的機能に着目し,地下街の歩行空間をネットワークグラフとして捉え,歩行者の移動利便性を考慮する点や,地下街の長期的な変化をみる点で新規性があり,約35年間空白である地理学の地下街研究の更新と現在における地下街の課題の発見に貢献できると考える.

 研究の対象である天神地下街は,福岡市の都心の一つである天神に位置している.都心部の地上交通の緩和と歩行者回遊性向上を目的とし,1976年に開業した.その後,地下街と接続する福岡市営地下鉄空港線天神駅が開業し,2005年には地下鉄七隈線天神南駅の開業とともに,地下街の延伸が行われた.地下街の大規模な延伸は全国でも珍しい.

 天神地下街の構造や利用状況の変化,周辺施設との関係から,天神地下街は天神地区の個々の施設を繋ぎ,天神地区を一つの商業空間・都市空間としてまとめる役割を担っているといえる.この役割を担うためには周辺施設をつなぐ通路としての機能だけでは成り立たず,利用者を惹きつける商業機能も必要である.天神地下街はその二つの機能と、周辺施設との良い位置関係を持ち合わせており,都心天神において重要な施設となったといえる.しかし,地下街内部を細かくみると,特に2005年の延伸後において,地下街店舗とその周辺の施設の利用に偏りが生じていることが示唆された.今後,天神地下街がより長く利用され続けるためには,地下街の公共通路としての機能を考慮した商業機能の強化が必要であろう.

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