日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 315
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発表要旨
ALOSシリーズを用いた東シベリア永久凍土帯における水域・植生変化域の経年変化の検出
*大森 直登飯島 慈裕
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抄録

近年、地球規模の温暖化が進行しており、特に北半球の

高緯度地域ではその影響が顕著に現れている。2005 年から

2008 年にかけて、東シベリア・レナ川中流域では夏季から

秋季にかけての降水量の増加がみられた。夏季の降水量の

増加は、永久凍土表層の融解を伴って活動層を厚くすると

共に、活動層内の土壌水分量の大幅な増加をもたらした。

その結果、土壌の過剰な湿潤化によって湛水状態が続き、

地表面上に生育する北方林の生育環境を悪化させ、森林の

荒廃が進行した(Iijima et al.,2014)。

 飯島ほか(2013)では、永久凍土並びに森林の荒廃をもた

らす一連の現象を継続的・広域的に捉える手法として、異

なる年代(2007 年から 2009 年)の ALOS/PALSAR 画像の

後方散乱係数を使用した解析が有効である可能性を示した。

しかし、2010 年以降の情報を加えて広域的な水域・植生変

化域を抽出はされていない。そこで、本研究では、上記の解

析手法を用いて東シベリア・レナ川・中流域の 2007 年から

2017 年までの時系列水域・植生変化域図を作成することを

目的とし、経年的な解析の有効性について検討を行った。

 本研究では、JAXA が打ち上げた人工衛星 ALOS/ALOS-2

に搭載されている合成開口レーダ PALSAR/PALSAR-2 が取

得した 2007 年から 2017 年のデータのうち、夏季(7 月か

ら 9 月)に取得された計 16 シーンのデータを用いた。

 ALOS/PALSAR および ALOS-2/PALSAR-2 が取得したデ

ータから後方散乱強度画像(dB 値)を作成し、スペックル

ノイズを軽減するために平滑化処理を行った。平滑化処理

は 5×5 ピクセルの平均値を求め、平均値を中心ピクセルに

付与した。平滑化処理後、2007 年時点の画像と、2009 年と

2007 年の差分画像および 2009 年時点の画像と、2015 年・

2017 年と 2009 年の差分画像の閾値に基づき、水域・植生変

化域の抽出を行った。閾値には、飯島ほか(2013)が設定し

たものを使用した。

 マイクロ波の後方散乱係数の閾値をもとに、解析対象地

域の ALOS/PALSAR および ALOS-2/PALSAR-2 画像を分類

し、2007 年から 2009 年および 2009 年から 2015 年・2017

年の時系列水域・植生変化域図を作成した(図 1)。加えて、

水域・植生変化域の凡例別の面積割合を算出した。

夏季降水量の増加に伴い、永久凍土の融解が進み、土壌

の湿潤化がみられた 2007 年から 2009 年においては、森林

(湛水弱+衰退)の割合が最も高い結果となった。以降、経

年的に森林(湛水弱+衰退)の割合は減少し、2009 年から

2017 年には、森林(湛水なし+回復)の割合が最も高くな

った。これは、2005 年から続いたような湿潤年が近年は起

こっていないことが要因として考えられる。一方で、回復

傾向にある 2009 年から 2017 年においてもレナ川右岸では

森林(湛水強+枯死衰退)に分類される地域が一部見られた。

この地域において水域・植生変化の時空間特性をさらに

明らかにするため、高解像度の DEM データによる地形解

析や NDVI のトレンド解析を行うとともに ALOS シリーズ

の他時期の画像を整備し、凍土荒廃と水域・植生判別の精

度向上、変化域図の広域化を図りたい。

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