日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 348
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コロナ対応からみた徳之島の地誌
*永迫 俊郎尾島 圭祐堀 信行
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抄録

はじめに  徳之島は北部から中部にかけて南北の中軸方向に山地(最高峰・井之川岳は645m)が連なり,山地の海側および南部には海成段丘が広がっている.面積248.02km2(離島統計年報2017)は離島の中で8番目の大きさで,2万2千人を割り込む人口は離島中10位に位置する.この島を語るうえで長寿,子宝,闘牛は欠かせず,徳之島町・天城町・伊仙町の3自治体で構成される.

 一方,2020年春先から新型コロナウイルスのパンデミック状態が,感染拡大・縮小の波を伴いながら続いている.感染症の拡大防止のため,国や都道府県が率先して対策を講じ,市町村も基本的にそれらの施策に準拠しているはずだが,さらに小さなシマ(集落)に着目すれば相違や地域差がみられる可能性がある.つまり,コロナ対応を切り口にして,地誌を描けないものかと発想した.

 本発表では,3町それぞれの新型コロナウイルス感染症対策本部の構成員(これらを束ねる徳之島三町の対策本部にも上層部は加わる)をはじめ,徳之島町4シマ,天城町5シマ,伊仙町3シマの区長さんや住民を対象にした聞き取り(尾島の3回3週間あまりの卒論調査での知見)に主にもとづき,コロナ対応ならびに徳之島の地誌について報告する.永迫の現地調査には令和3年度鹿児島大学教育学部鶴丸優美子研究助成寄附金を使用した.

観察結果  町誌などによれば,1708年から1870年にかけて疱瘡が約25年おきに流行し,麻疹や痢病といった疫病も発生しており,ノロが祈祷のために踊ったことやシマ内部によそ者を入れないように「みちきり」が行われた記録がある.今般のコロナ対応では,いずれのシマでも祈祷やみちきりは実施されず,科学的な見知が尊重され,極端に閉鎖的な対策はされなかったと言える.

 日本における第五波の収束までに徳之島では300人(徳之島町181人,天城町45人,伊仙町74人)の感染が確認され,感染者比率はおよそ全島1.37%,徳之島町1.79%,天城町0.80%,伊仙町1.20%で,奄美群島で群を抜いて高い.最も低い天城町は,2020年9月26日に島内初の感染者を出したことと空港を抱える危機感から,1年目の2020年から対策を強化し,2021年のワクチン接種もいち早く完了させたことが功を奏した形である.

 島内共通の「徳之島新型コロナウイルス警戒レベル」に応じた行動マニュアルを作成しているのは天城町だけである.これに対して,徳之島町の人口の過半が集中する亀津は,奄美沖縄航路の亀徳新港を抱え他地域からの往来が多く,且つ島内随一の中心地機能が集積しているため,感染リスクが最も高いと島中で警戒されている.

 シマのスケールでは,区長の果たす役割が大きく,防災無線を介した追加の注意喚起や会報の配布などは区長の裁量に委ねられている.最も内陸の山間部に立地する天城町当部のように,住民が自主的に十分なコロナ対策をとる場合,殊更に区長が呼びかける必要はない点は注目すべきである.互いの顔が分かる小集落の美点である.

議論  隔絶性が高く遮断の効果が期待される島嶼ながら,島外からの訪問自粛を呼びかけた期間は限定的で,人口の少ないシマでは所謂感染症対策が不十分と思われる局面にも出会した.食料や物資の大部分を島外に依存する現状や,気心の知れた仲間内という安心感が要因として思い浮かぶが,「ゆいむん」の思想が根底にあり,お互いに助け合う「結い」の精神が健在であるからに違いない.外に対してはゆいむん,内では結いが鍵となる.

 コロナ禍に伴ってイベントや会食の機会は激減したものの,コミュニティが弱体化した様子は見受けられず,地域社会という第三の足場を喪失した都市部とは好対照をなす.人口増によりみんなの顔が分かるとは言えない徳之島町の亀津や花徳のようなシマは過渡期に相当するが,住民と行政との心理的距離の近さは救いである.

 闘牛や選挙のイメージから,好戦的で荒々しい印象を持たれがちだが,熱狂しやすくも切り替えも早いと捉える方が適切である.米軍普天間基地の移設先候補に島の名前が挙がった時の全島反対集会に象徴的なように,徳之島は平和主義で一貫している.それぞれのシマがあり,それらを三町が包含し,その三つ巴が島を構成している.若干のライバル意識やお隣さん問題はあるにせよ,オール徳之島で団結でき,全体として絶妙なバランスの中にまとまっている.こうした三重構造の素地には自給自足が可能な島と称された島の自然生態があると予想される.チ四:地・血・知・霊の立体的な構造把握が重要である.

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