2013 年 17 巻 3 号 p. 245-250
【はじめに】大脳皮質基底核変性症(CBD)の発症4年後の嚥下障害に対応し,声帯の外転障害による著しい呼吸障害を呈した1 例を経験したので報告する.
【症例】72 歳女性,平成20 年2 月にCBD との診断を受けた.平成22 年10 月に誤嚥性肺炎にて入院,胃瘻造設後に自宅退院となった.その後,平成23 年3 月当科を訪問,嚥下評価の依頼により介入を開始した.
【経過】初診時平成23 年3 月,ゼリー等を用いて嚥下内視鏡検査(VE)を行ったところ,著しい口腔期障害が認められたが,一口量を少なくすれば誤嚥なく摂取が可能であった.その後2~3 カ月に1 回往診にてVE を行い,フォローアップしたところ,徐々に嚥下障害が進行し不顕性誤嚥の出現を認めた.平成24年3 月,家族より日中の閉口に伴う息こらえ,体位変換中のチアノーゼ,夜間のいびきが増えたとの情報があり,呼吸に伴う声帯の動きを観察した.呼気時に声帯の過内転が観察された後,吸気時に声帯の外転障害が生じ70 秒程度継続した.そのため経口摂取を中止し,デイサービスおよび夜間の酸素飽和度を測定させたところ,朝方,胃瘻からの経腸栄養滴下中に急激な酸素飽和度(SpO2)低下をきたしていたことがわかった.呼吸障害がある旨を即時主治医およびケアマネージャーに報告し,SpO2 低下時に酸素吸入を行うこととした.
【考察】パーキンソン病や進行性核上性麻痺などで,後輪状披裂筋の麻痺を伴わない声帯の外転障害が報告されているが,われわれの検索の限りでは,CBD において同様な症状は知られていない.これは錐体外路症状による内喉頭筋の持続的な筋緊張による呼吸中枢機能と,声帯運動の協調不全と考えられる.稀な症例であるが,VE を施行する際は声帯の観察も行い,嚥下評価だけでなく呼吸の評価も行うことが重要であると考えられた.