日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P012
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カラコラム山脈北西部における1967-2020年の氷河面積の変化
*梶山 貴弘
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抄録

1 はじめに

 アジア内陸部に位置するカラコラム山脈の氷河は,近年の世界的な縮小傾向とは異なり,2000年代以降において停滞または拡大傾向にあるとされる。しかし個々の氷河をみると,2010年頃にかけては,末端位置の後退,面積の縮小および表面高度の低下が認められる氷河も比較的多く,また氷河サージも多数認められている。とくに同山脈北西部においては,氷河の拡大・停滞・縮小・氷河サージと,複雑な様相を示している(Rankl et al., 2014; Bolch et al.,2017; Baig et al., 2018)。これらは,個々の氷河が位置する流域・山体における微気候または地形環境の違いに起因するものと推測されているが,良く分かっていない。個々の氷河の振る舞いは,グローバル・ローカルにおける気候変化との関係だけではなく,個々の集落における水資源としても重要であり,とくに乾燥帯に位置する本山脈では,日常生活に直結する問題である。

 そこで本研究では,カラコラム山脈北西部における氷河変化を明らかにすることを目的とする。そのうち本報告では,氷河の形態および地形環境が異なる氷河を対象として,最新の2010年以降の変化を含む,1967-2020年におけるやや長期的な氷河面積の時系列変化を明らかにする。

2 対象地域の概要と方法

 カラコラム山脈は,北西-南東方向に連なる約500 kmの山脈である。北西部の主尾根の標高は7000 m以上に達するが,主谷は約1000-2000 mであり,比高が非常に大きい地域である。2009年の氷河台帳(梶山・藁谷,2013)によると,北西部の大部分を占めるインダス水系フンザ川流域には,1322氷河が認められ,その合計面積は4275.7 km2である。

 面積変化の解析は,約10年間隔で,それぞれ1967年(CORONA)・1990年(Landsat TM)・2000年(Landsat ETM+)・2010年(ALOS AVNIR-2,ASTER)・2020年(Landsat OLI)前後の多時期の衛星画像を用いて判読し,氷河範囲をマッピングしてその変化を求めた。CORONA・ALOS・ASTERは,GCPを用いて幾何補正を施した。2010年前後の範囲は,2009年の氷河台帳(氷河分布図)のデータをそのまま使用した。氷河範囲のマッピングは,涵養域の積雪域などにおける判読誤差を考慮し,消耗域のみを対象とした。

 各期間の面積変化は,各年代の氷河範囲に,使用した衛星画像の空間分解能1ピクセル分のバッファを発生させ,それ以上の差が認められた場合のみを変化として「拡大」と「縮小」に分類した。差が認められない場合は,全て「停滞」とした。

 解析対象氷河は,氷河台帳を基に,位置・長さ・岩屑被覆率が異なる氷河を,空間分布が分散するように選定した。なおこれらは同時に,面積・発達高度・方位なども異なっている。本山脈に多数発達する岩屑被覆氷河は,とくに末端範囲が特定し難い場合が多いため,全年代の衛星画像において範囲が特定可能な氷河のみを対象とした。また,サージ氷河またはその可能性のある氷河は,解析対象外とした。すなわち今回の対象氷河は,30氷河である。

3 結果と考察

 解析の結果,1967-2020年の面積は,全氷河において後退を示した。また,1967-1990年も,全て後退を示した。しかし1990年以降は複雑である。1990-2000年は前進10,停滞7,後退13,2000-2010年は前進9,停滞3,後退18,2010-2020年は前進4,停滞14,後退12であった。すなわち前進数は減少し,停滞数は増加した。後退数は2000-2010年に増え,その後2010-2020年に減少したが,氷河数としては全期間において多かった。

 また1990-2020年において,前進し続けた氷河は無く,停滞し続けた氷河もわずか1氷河,後退し続けた氷河は4氷河で,それは長さ10 km程度の中規模な岩屑被覆氷河であった。したがって面積変化でみると,北西部の氷河は近年,停滞傾向またはわずかな縮小傾向を示す。

 しかし,このような各期間における氷河変化の傾向と,氷河の形態および地形環境との関係は,明瞭ではない。さらに,1990-2020年を通して,一定の変化傾向を示さない氷河は25氷河も認められる。そのため,さらなる氷河変化の実態と,変化要因の把握が必要である。

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