主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2022年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2022/03/26 - 2022/03/28
1.はじめに
房総丘陵から太平洋に流下する夷隅川の河口部には,沿岸漂砂により形成された砂州が発達している.この砂州は北北東-南南西方向に伸びており,中央部に建設された突堤を境に,北側は和泉浦,南側は日在浦という名称がつけられている. 夷隅川の河口は,現在は砂州を人工的に開削した位置にあるが,以前は南方向へ偏倚していたので,沿岸漂砂の向きは北から南方向であると考えられる.一方,野志ほか(2014)などは,夷隅川が北方の九十九里浜の土砂供給源となってきた可能性を指摘している.このように,この地域の沿岸漂砂の流向については不明な点が多い. そこで,空中写真で判読できる波向や海浜に堆積している竹などに着目して,沿岸流の卓越方向を検討した.
2.調査方法
伊能大図,1883年測量の明治期迅速測図,1903年,1944年,1981年測量の地形図を用いて,河口位置の変遷を調べた.また,本地域における沿岸流は波向の影響が大きいと仮定し,1947年以来の12時期の空中写真を用いて海面の波向を判読した.海域に流入した河川水の流れの方向に関しても空中写真を用いた判読を行った.本地域の海浜には,夷隅川流域から流されてきたと考えられる竹が堆積しており,2021年9月に,現在の夷隅川河口以南の17地点で,堆積した竹の長軸の方位をクリノメーターを用いて計測した.夷隅川河口の北側の海岸は立ち入り禁止区域であり,計測地点は設定できなかった.
3.結果・考察
地形図判読より,江戸時代末期から1903年~1944年までの間のある時期まで,河口は南に移動し,河口偏倚の程度が大きくなっていくことが分かった.したがって,砂州を南方に伸長させる南向きの沿岸流が卓越していたと考えられる.1947年以降の波向は南東および東南東から入射することが多いが,北寄りの場合もあり一定しない.また海域に流出した河川水の流れの方向も一定しない.2021年9月時点で海浜に堆積していた竹は北北東-南南西方向から東北東-西南西方向のものが多く,海岸線方向よりわずかながら東西方向に近い傾向が認められた.竹の長軸方向は波の入射方向に直交するので,このときの波浪による沿岸流には北向きの成分があったことになる.夷隅川河口から供給された竹は,海域に広範囲に広がった後,海岸付近では風波や沿岸流によりに北西方向に移動しつつ堆積したと考えられる. 野志ほか(2014)によると,冬期には北寄りの風による南向きの沿岸漂砂が卓越するが,最近30年ほどはそれ以前より和泉浦・日在浦への土砂供給量が減少している.本地域における沿岸流の卓越方向は,最近のおよそ200年間の全体でみると南向きが卓越するが,最近の数十年程度あるいは年間でみると単純ではない.この時間スケールによって異なる方向の差異については,一層の検討が必要である.