日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 245
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日本での福島第一原発事故における避難者に関する研究動向
*藏田 典子友尻 大幹
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抄録

1.背景と目的

 東日本大震災(以下,「震災」)および福島第一原発事故から10年を迎えた2021年は,改めて大規模災害について考えさせられた一年であった.9月に開催された日本地理学会でシンポジウムが組まれたことをはじめ,様々な学術領域において震災に関する活発な議論の場が設けられた. 震災を起点に多様な研究活動が行われる一方で,学術界や研究者は避難者に対してどのような貢献ができたのだろうか. 発表者は避難者に関する研究を進めるなかで,被災地から京都へ避難した避難者から「アンケートなどに答えたものの,フィードバックがこない」との言葉を直接的に向けられたこともあり,避難者と向き合うなかで,研究者として何を貢献できたのかと突きつけられることがあった. 今なお約3万9千人に及ぶ避難者が,全国47都道府県の914市区町村への広域避難を余儀なくされている中で(2021年12月),これまで研究者が避難者に関してどのような知見を提供してきたのかを検討することは研究の意義を示す上でも重要である.そこで本稿では,震災に関する研究の中でも,とりわけ福島原発事故と避難者に焦点を当て,その研究動向を定量的に解析することを目的とする.

2. 分析方法

 研究動向の分析には,国立情報学研究所の学術情報ナビゲータ(CiNii)に掲載されている論文に関するデータを用いた. 「福島原発事故」を検索ワードとしてタイトル検索を行い,論文タイトルおよび論文出版年のデータを取得した.

 「避難者」に関する研究動向を明らかにするために,論文数の解析と併せて,論文タイトルを対象とした単語の共起関係に基づく共起ネットワークを作成した. 経時的な研究動向の推移を検討するために,震災以降の10年間を前半・後半に分割し,各期間で個別に共起ネットワークを作成した.

3.結果

 発表された論文数は最多となった2011年(338件)から次第に減少し,2019年に最少(45件)となった. しかし,2020年には増加傾向に転じ,2021年には131件の論文が発表された. 「避難者」に関する論文は2012年に初めて出現し,その後は少数ではあるが継続的に研究されていることが分かった.

 共起ネットワークによる分析の結果, 2011年から2015年には「避難者」が要素として表出されなかったが,2016年から2021年には「訴訟」や「賠償」といった単語と共に表出されるようになった.

4.考察

 1000年に一度の未曾有の大災害と言われる東日本大震災であるが,その研究は災害直後に最もなされて以降は一貫して減少が続き,10周年の区切りとなった昨年度は研究数が一時的に増加したものの,今後はまた減少していくと予想される. そのような中でも,「避難者」に関する研究は震災の翌年から少数ながらも持続的に実施されてきた.ただし,「避難者」に関する研究および調査は,裁判に関するテーマと共に論じられることが多く,避難者が抱える問題は多岐に渡るはずだが,研究は限定されたテーマに偏っていると考えられる.

 避難者が抱える痛みや苦しみに対して,研究者は何ができるのか,どのように貢献できるのかを改めて考える必要があるだろう.今後もより避難者に寄り添った研究を進めていくことが求められる.

謝辞

 本研究は, JSPS科研費19J22325の助成を受けたものです. ここに記して御礼申し上げます.

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