日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 334
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縁辺地域における地域金融機関の店舗展開
*新見 祐樹
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抄録

1.はじめに

 金融機関は家庭や企業から余剰資金を集め,企業や事業者の資金需要に対して貸付を行うことから,国内外の経済において大きな役割を果たしている.地理学においては,店舗立地の変遷に関する研究や,預貸率の地域差から都市の階層構造を論じる研究がみられる.例えば阿部(1981)は1900年代初頭の銀行支店網の変化を検討し,1940年までに各都道府県内に複数あった銀行のうち多数が淘汰され,その支店網は各県の有力都市とくに県庁所在都市を中心に再編成されたことを明らかにした.また,藤田(1980)は銀行の店舗立地について資金吸収力や運用と密接に関連していると指摘したうえで,都市銀行や信託銀行などの大銀行の店舗展開から三大都市圏への店舗集中がみられることを示した.また預貸率の地域的構成から地方の資金が東京へ引き上げられていることを明らかにした.これらの分析は店舗網と資金の移動が密接に関係していることを示している.そこで本研究では,全国規模で店舗を展開する都市銀行の立地が希薄で,金融サービスの縁辺地域といえる島根県において,地域金融機関の店舗立地の変化と,市町村ごとの事業所数に着目し,地域金融機関の役割を検討する.

 2.島根県における金融機関の店舗立地  島根県に本店を置く金融機関は銀行が2行,中小企業金融機関が4行ある.銀行はいずれも県庁所在都市の松江市に本店をおくが,第一地方銀行である山陰合同銀行は島根県のほとんどの市町村に事業性融資取扱店舗を配置しているのに対して,第二地方銀行の島根銀行の事業性融資取扱店舗は松江市と県内主要都市のみに展開されている.また,中小企業金融機関4行は,それぞれ県内主要都市である松江市,出雲市,浜田市,益田市に本店を置き,その周辺市町村に事業性融資取扱店舗を展開している.

 3.金融機関の店舗配置の違いによる役割の差異  第一地方銀行は,県全域に店舗を展開していたが,近年では事業性融資取扱店舗の削減が行われている.経済規模の小さい町村では,事業性融資取扱店舗の配置が無くなり,これまでは事業性融資取扱店舗が複数配置されていた県内主要都市でも,1店舗のみの配置となっている.中小企業金融機関は県庁所在都市や県内主要都市に本店を置き,その周辺の市町村に店舗を展開している.本店所在都市以外では,おおむね1店舗のみの配置であるが,経済規模が小さい町村にも店舗を配置している.およそ30年間で中小企業金融機関が合併し,近接する店舗の削減が行われたが,事業性融資取扱店舗の立地する市町村数にほとんど変化はなく,店舗網は維持されている.  事業性融資を扱う店舗が立地する市町村数で比較すると,従来は第一地方銀行が最も多くの市町村で店舗を展開していたが,事業性融資取扱店舗を削減したことで,中小企業金融機関の事業性融資取扱店舗の立地する市町村数のほうが上回るようになった.このことから,融資を受ける事業者にとって,第一地方銀行が撤退した地域では中小企業金融機関がその役割を担うことになり,地域の事業者にとって中小企業金融機関が最後の砦になっていると考えられる.

文献

阿部和俊 1981. 近代日本における銀行支店網の展開.経済地理学年報27(2):21-39.

藤田直晴 1980. 大銀行資本の店舗網と資金循環.経済地理学年報26(2)36-49.

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© 2022 公益社団法人 日本地理学会
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