日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S303
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高等学校「地理総合」につながる中学校社会科「地理的分野」の防災に係わる学習とは
*山内 洋美
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抄録

1.はじめに

2022年度から高等学校で必履修となる「地理総合」.その学習指導要領改善・充実の要点において,「世界で見られる自然災害や生徒の生活圏で見られる自然災害」についても取り扱うと明示された.「地理総合」には,中単元C 持続可能な地域づくりと私たち (1)自然環境と防災 といった,「防災」と明記された単元が存在するが,それだけでなく「地理総合」全体に,地理的見方・考え方に基づいた小中高の防災学習のまとめとしての役割が付されたと考えてよいだろう.

そこで,発表者が頂いたテーマである,中高社会系教科における防災学習のつながりと到達点を,おもに「地理総合」の防災学習の到達点と中学校教科書の記述の係わりから考えてみたい.

2.高等学校「地理総合」における「防災」に係わる学習の到達点

「地理総合」において重要な観点の一つに「持続可能な社会づくり」がある.東日本大震災を経験した発表者は,この10年で存続が困難な集落や地域をいくつも垣間見た一方で,新しい形で集落や地域を存続させる努力も多く拝見した.その背景は非常に複雑で、直接的な地震・津波等の被害の大小とは必ずしも関わらない.

だからこそ,「持続可能な社会づくり」を論じるにあたって,前述「地理総合」改善・充実の要点にある通り,「災害を引き起こす自然現象(ハザード)と社会的な脆弱性との関係が災害の規模に反映されることや,その両者の関係を踏まえて地域の防災の在り方を考察することの重要性を理解」できるような学びが「地理総合」でなされることが望ましいと考える.ただハザードから一時的に逃れるための知識を手に入れるだけでなく,対象地域のもつ独自の地域性を大切にし,その場所に(持続的に)暮らし続けるための「防災」であるからだ.

3.中学校社会科地理的分野における防災に係わる学習の課題

中学校社会科地理的分野の学習指導要領においては,「日本の様々な地域の学習における防災教育の重視」が改訂の要点の一つである.それを踏まえて,九州地方の火山災害,中国・四国地方の水不足とため池,近畿地方の都市における地震の被害,関東地方の氾濫原における都市化と水害,東北地方のやませによる冷害やリアス海岸による津波の増幅,北海道地方の火山災害が全4社の教科書で挙げられている.一方で,中部地方の北陸における豪雪被害や平野部の梅雨による洪水,東北地方の東日本大震災に伴う原発事故の被害,北海道地方の雪害など地域性を反映した事例は一部の教科書にしか載っていない.また,北海道地方で最も発生が多いゲリラ豪雨が関東地方の東京周辺で多いことになっているなど,地域の特徴を反映した記述とは必ずしもいえない.

そして最大の課題は,教科書会社4社すべてで取り上げている概説としての気象災害と地震・火山災害については現象と被害の概説のみで,その偏在とその要因との関係について具体的に触れていないことである.つまり,土砂災害はどのような状況でどのようなところで起こりやすいのか,また河川氾濫の被害が大きい地域の地理的な特徴は何か,といったつながりが本文からは読み取れず,知識や用語が細切れになってしまいかねない.結果,教科書の事例を,日本や世界の他地域の自然環境や社会環境に重ねて考えることが難しくなる.

そうすると,「地理総合」で改めて系統地理的な自然環境に関する知識を授けなければ中単元Cは扱えないと考える高校教員が増えることは明らかだ.「地理総合」5社6冊すべてで自然環境に係る系統地理的知識のページを備えているのもそのためだろう.

4.提案

中単元「日本の地域的特色と地域区分」において,教科書の重要語句として扱われるような自然環境と自然災害/防災の取組について,地理的見方・考え方を用いて互いに関連付ける事例を教材として,地理学者の研究成果をお借りして作成することが必要と考える.

また,中学校社会科歴史的分野の中単元A 歴史との対話 (2)身近な地域の歴史 における地域調査を,地理的分野の防災単元の内容と関連づけて扱うことも有効と思われる.自然環境の特色を踏まえて災害を防ぐ,減衰させる視点で地域をとらえたときに感じる,なぜこのようなところに暮らし続けるのかという疑問と矛盾に向き合うときに,歴史的見方・考え方も合わせて地域を包括的にとらえることで地域のアイデンティティがみえてくるからだ.

もちろん,小学校生活科や社会科で,行政区分としての地域にこだわることなく,児童が自らの暮らしを営み,体感として自然環境や社会環境を理解でき,その現状や将来像について具体的に表現できる「身近な地域」学習が行われていることが,中高における防災に係わる学習の最も大切な土台となる.震災とコロナ禍の影響もあり,明らかに身体的空間認識力が衰えていると感じている.

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