東北地域に広く分布するブナ林土壌は、古くから保水機能(水源涵養機能)が高いとされてきた。しかしながら、ブナ林土壌がどのくらい高い保水機能を有するのか、量的に評価した研究はほとんどない。演者らは前報、前々報で、岩手県北部の安比高原に分布するブナ林土壌を対象として、保水機能の2つの能力(通常時に使える土壌中の水の「貯金(保水力)」と、もしも(大雨)の時に水を容れることのできる「保険(貯水能)」)を量的に評価した。今回は、安比高原に加え、岩手県南部の胆沢川上流部、秋田県北部の森吉山麓高原に調査地を設定し、「保水力」の指標と考えられる土壌含水率と、「貯水能」の主要因子である表層土層厚(土壌厚)を多点で測定し、一部で土壌断面調査を実施して土壌の透水性と保水性を測定して、両機能の定量化と調査地ごとの比較を試みた。 調査は、岩手県八幡平市西森山北麓の緩傾斜の溶岩・火山泥流堆積地に広がる安比高原のブナを中心とする二次林、同奥州市焼石岳南方の胆沢川上流部段丘面上のブナ・ミズナラ天然林、秋田県北秋田市森吉山麓高原の小河川沿いに広がるブナ天然林で実施した。 調査方法は大きく2つに分かれ、各調査地のコアプロット内での土壌含水率測定と表層土層(土壌)厚測定を実施した。土壌含水率は、フィールドスカウト スタンドアロンTDR土壌水分計(TDR-100, スペクトラム社製)を用いて2深度で測定し、表層土層厚(土壌厚)は、土層強度検査棒(太田ジオリサーチ製)を用いて測定した。さらに、表層土層が厚い地点で土壌断面調査を実施し、土壌物理性測定用円筒試料を採取して、透水性・保水性を測定した。測定の結果、森吉山麓高原に分布するブナ林土壌の「保水力」は、安比高原や胆沢川上流部のブナ林土壌と同等かそれ以上で、「貯水能」は2倍程度大きいと推察された。今後更に測定データを蓄積し、より詳細な解析を行う予定である。