日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 537
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多摩川水系浅川の水質に関する水文地理学的研究 (4)
*小田 理人小寺 浩二
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抄録

Ⅰ はじめに

多摩川水系の浅川では、生活排水による汚濁等の課題が存在する。流域の水質及び特性を把握するためには現地調査のみならず、様々な手法を組み合わせた総合的な研究が求められる。本研究ではフィールド調査の結果と水質分析及びその結果を利用した統計解析による考察から浅川の流域特性を明らかにすることを目的とする。

Ⅱ 研究方法

浅川の流域特性及び水質を把握するために、データ解析、現地調査、水質分析、統計解析、先行研究との比較を行った。データ解析は国勢調査結果から人口の推移及び町丁目別人口密度、国土数値情報から流域土地利用割合の変化、八王子市生活排水処理基本計画2014から汚水処理方法別人口の推移を求めた。現地調査は2020年6月~2021年10月の17か月間において月1回の観測と2021年11月~2022年1月の自記録計観測を行った。水質分析は全有機炭素、主要溶存成分、アンモニウムイオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、溶存酸素の計測を実施した。統計解析は2021年9月の結果を利用し、クラスター分析、主成分分析を行った。先行研究との比較は、小倉(1980)及び太田・大森(2004)の電気伝導度値と今回の現地観測の電気伝導度の値の比較を行った。

Ⅲ 結果と考察

月一回観測では電気伝導度(EC)が冬季に上昇が見られた。これは降水量の減少により地下水の寄与率が上昇したものと思われる。pHは冬季に低い値を示し、これも地下水の影響とみられる。夏季にはpHは高い値で、藻類の炭酸同化作用と思われる。週一回観測では降水により電気伝導度、pHが低下する様子が確認された。自記録計観測では特に南浅川において日周期が見られ、南浅川流域の排水によるものと思われる。 上流では硝酸イオンの検出がみられる地点が多く、森林生態系の窒素飽和によるものと思われる。下水処理場の排水が流入する山田川では非常に高い濃度の硝酸イオンが検出され、下水処理場排水が完全に処理されていないことが分かる。アンモニウムイオン、亜硝酸イオンは上流においても検出され、浄化槽からの排水による影響とみられる。 クラスター分析(Ward法)では、5つのクラスターが生成された。湯殿川では上流と下流の観測点が別のクラスターに分類され、流下に伴い水質が変化していることが示唆された。主成分分析では第1、第2主成分で49.75%の寄与率を示した。第1主成分に最も寄与しているのはRpH、第2主成分に最も寄与しているのはアンモニウムイオンであった。

Ⅳ おわりに

本研究から、上流における市設置合併浄化槽の遅れと浄化槽排水による汚濁、上流における森林生態系の窒素飽和による硝酸の流出、山田川への北野下水処理場の排水の流入による汚濁、湯殿川流域からの生活排水による汚濁の4つが浅川流域の課題として明らかとなった。これらの課題を解決するために、流域環境の整備が求められている。

参考文献

小田理人,小寺浩二(2021):多摩川水系浅川の水質に関する水文地理学的研究(3), 日本地理学会発表要旨集 2021a(0), 79, 2021.

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