1.はじめに 本報告では,モンゴル人留学生・元留学生へのインタビュー調査の成果をもとに,住まいとアルバイトの2つの観点から,彼/彼女らの日本留学時の生活を整理する.前者は留学生活において不可欠なもの,後者は留学生一般にとって学業以外に広く共通する活動である.結論を先取りすれば,これらが留学生にどのように経験されるか,あるいは留学生にどのような経験をもたらすかは,各々が置かれた経済状況に大きく影響される.本報告では,国費・私費という財源のちがいを主軸に,2つの経験を紐解いていく. モンゴルから日本への留学機会は,1990年代後半,2000年代にかけて拡大した.留学機会の拡大とは,すなわち私費留学生の増加を意味し,2000年代前半に30~40%を占めた留学生に占める国費留学の割合は,2022年現在15%程度に低下した.国費留学生は,学費の免除に加えて月々の生活手当が支給され,留学期間中の生活が保障される.対して私費留学における生活のレベルは,本人あるいは支える家族の裁量に左右される.本稿では,こうした経済状況の相違が日本での生活にいかなる違いをもたらすのかを掘り下げる.留学期間中の経験はその後の人生設計に影響するという意味において,個人のライフコースと留学経験との関係をとらえる一歩となる. 関連するインタビュー調査は2020年~,留学生・元留学生を対象に継続的に実施し,2023年7月現在までに34名から話を得た.属性の内訳は,現役学生4名,元留学生30名である.留学財源は国費が19名,私費が15名だが,私費留学生は民間の奨学金や学費の免除など,皆なにかしらの措置を受けている.5人が日本へ複数回の留学経験をもち,うち3人は私費留学の後,国費留学を経験した. 2.住まいの経験 留学開始時の住まいは,国費と私費とでスタートが異なる.入学後,一定期間は安価な大学の寮に入れる場合が多い国費留学生に対し,私費留学生は自ら物件を探し契約する作業に加え,相応の家賃負担を余儀なくされる.しかし見知らぬ土地での住まい探しは容易でなく,教育機関を頼った結果,本意ではない環境に身を置くことになる例もままある.住まい探しの多くは不動産屋を介すものの,決定に至る過程は,外国人であるがゆえに難航する例も少なくない.私費留学の場合,家賃を抑えるためにルームシェアが選択される例も多い.シェアの相手は,同時期に滞在する親族やモンゴル人の友人が主である. 3.アルバイトの経験 私費留学生にとって,アルバイトは「生活のため」に欠かせない活動である.とりわけ本人が学費を負担している場合には相応の稼得が必要となり,留学初期の段階から可能な仕事にはなんでも従事する.そして「アルバイト三昧」と形容されるように,つねに複数をかけもつ.また少しでも時給の高い仕事を求めて,夜勤の仕事に就いたり,生活圏を離れ繁華街で機会を得たりもする.これに対し,一定程度の生活が保障される国費留学生の場合,アルバイトは絶対ではなく,あくまでも「経験のため」と位置づけられる傾向にある.「やってみたい」や「よい経験になりそう」といった関心から興味のある職種を選択したり,仕事や条件が合わなければすぐに辞めたりもする.そして,稼いだアルバイト代は娯楽や旅行,あるいは貯金にまわされる. 日本語能力は,こうしたアルバイトへの参入機会や職種を左右する.留学初期の未だ不十分な段階では,飲食店での皿洗いやホテルでの清掃,ベッドメイキングなど,従事できる仕事が裏方仕事に限定される傾向にあるが,語学力の向上に伴い,ホールスタッフなど表舞台の接客業へと職種が広がる.特に飲食業においては,アルバイトが日本語力を向上させる側面も強い.