日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P034
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高齢者農家における貨客混載の意義
兵庫県三田市の事例を中心に
*竹川 陽揮
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抄録

1.研究背景  近年,物流におけるトラックの重要度が極めて高まる一方,若年人口の減少や厳しい労働環境から運転者不足が顕著である.他方,地方圏を中心とした多くの公共交通事業者が,利用客の低迷によって損益悪化に直面し,路線を維持することができずに廃止を余儀なくされるなど,公共交通についての課題も多い. そのような中で,貨物と旅客を一緒に運ぶ貨客混載の取り組みが注目されている.貨客混載は,物流事業者の輸送効率化,公共交通事業者の収入拡大とそれによる路線維持などに寄与するとされるが,地域の生産者にも影響を及ぼすことが予想される.そこで本研究では,地域の生産者にとって貨客混載にはどのような意義があるかを明らかにするために,兵庫県三田市における路線バスとJAによる貨客混載の事例を取り上げる.

2.貨客混載の概要 貨客混載をめぐる制度について,鉄道は,2016年10月の法律の一部改正により,旅客鉄道を利用して貨物輸送を行う際に必要な変更手続きの簡素化が実施された.自動車は,2017年9月に旅客と貨物の両事業の「かけもち」ができるよう許可基準の変更が実施され,2023年6月に過疎地域と限定していた許可の範囲がさらに拡大した. 貨客混載で運ぶ「モノ」に着目して分類すると,以下の3つに大別される.すなわち,①物流事業者と連携し,宅配便や郵便の集配局間や各戸への配達など行うもの,②農産物や水産物などの地域の商品を運ぶもの,③「観光支援型」と呼ばれる,観光客の手荷物をホテルや空港へ運ぶものである.本研究では,②にあたる農産物や水産物を輸送する取り組みを対象とする.

3.兵庫県三田市の事例  事例として,兵庫県三田市において神姫バス(株)とJA兵庫六甲が連携して行っている,路線バスを用いた少量農産物の出荷代行について聞き取り調査を実施した.この取り組みは,地域の農家が生産した野菜や果物を,JAの支店近くのバス停から路線バスの空きスペースに載せ,JAが運営する直売所近くまで輸送するものである.積込は生産者とJAのスタッフ,荷下ろしは直売所のスタッフによって行われる. この取り組みは,加齢などで車を運転することが困難となり,青果物を作っても出荷できず生産を諦めていた農家と,人口減とコロナ禍によるバス利用者減少の中で少しでも利益を生み出したいバス会社,品薄になる昼以降の商品の拡充を行いたい直売所などの思惑が重なったことで実現した. 聞き取り調査の結果から,出荷が可能となり,青果物の生産の継続だけでなく,復帰した生産者もみられた.また,路線バスを利用して出荷する生産者同士で,値段の相談・育て方のアドバイスなどの会話が生まれ,気晴らしになっていることも明らかとなった.そのほか,バスに乗って運ばれてきたという珍しさから一般に出荷した際と比べて生産物の売れ行きが良いことといった意義も明らかとなった.

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