日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P031
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リモートセンシングとENVI-metを用いた都市内公園が屋外温熱に与える影響の分析
*潘 毅一ノ瀬 俊明森本 健弘
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抄録

1.研究背景 ヒートアイランドに関する研究においては,現場に行かずに広域的研究が可能になる利便性,過去の衛星画像を用いて長期の分析が可能,データ処理の効率化等のメリットにより,リモートセンシングデータがよく使われている。例えば,Landsat衛星のbrightness temperatureというバンド(Landsat 5/7:B6,Landsat 8:B10)を使ってLST値(Land Surface Temperature)を推測できる。近年では,google earth engine(GEE)という新たなプラットフォームにより,リモートセンシングデータの分析効率が高まっている。 しかし,リモートセンシングを用いたLST分析には,以下の欠点が挙げられる。 ① 夏には熱現象が顕著だが,雨の日が多いため,雲の影響で衛星データの欠落が生じる ② Landsat衛星の30m解像度でも,小地域の分析には厳しい ③ 主な衛星は地表面からの日光の反射をセンサーで捉えてデータとするため,夜間分析及び3次元分析が困難である

2.既往研究と本研究の目的 本稿の著者の一人は以下の点を示した(一ノ瀬,2023)。すなわち(1)Sugawara et al(2015)のように大規模な都市内部緑地・河川空間の存在による周辺の冷却効果は,地表面温度ではなく気温に現れる,(2)Jiang et.al(2021)らのように地表面温度にも冷却効果が見えるという主張をするなら,気温が地温に影響するか,もしくは土壌層内部における熱の水平拡散(伝熱)の効果が十分大きいということを示す必要があるが彼らはこの検討に踏み込んでない,(3)Landsat-8(TIR)空間解像度に疑念が残る。 そこで本研究では小気候シミュレーションモデルENVI-metとリモートセンシングデータを合わせて,大規模緑地公園が屋外温熱環境へ与える立体的な影響を明らかにすることを目的とする。

3.研究地域、データ及び方法 茨城県T市の県営D公園は,東西・南北それぞれ1辺数百mのスケールを有する緑地公園である。県庁が提示した再開発計画においては,公園内の野球グラウンドがグランピング施設へ変更され,それに伴い数haの樹林地が駐車場へ変更される。 Google map及び10m解像度のSentinel-2で分類した公園地域の土地利用図を参照して,公園モデルを構築した。 1年を通じ最悪のケースを想定し,7月末の猛暑日の午後3時を計算対象とした。鹿島灘からの海風(東風)が卓越する晴天日の気象データを入力条件とした。そして,Landsat-8で計算したLSTを地面温度データとして条件設定に入力した。

4.結果 公園の西側に道路をはさんで中高層住宅街区が隣接しており,ここへの影響を想定した。 当該住区の棟間におけるPMV(Predicted Mean Vote)の上昇は0.3程度と見積もられた。これは10%程度の住民が,従前と比較して暑さの度合いが変化したと感じるレベルの変化である。 本研究の手法より,緑地公園の周辺冷却効果が開発によって低減する影響を高い解像度でかつ3次元的に示したといえる。

参考文献: 一ノ瀬 俊明(2023):日本地理学会発表要旨集 103,51 Sugawara et al.(2015):Journal of Environmental Quality Jiang et al.(2021):Int. J. Environ. Res. Public Health,18(21),1140

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© 2023 公益社団法人 日本地理学会
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