造園学は、近代の市民社会における公共空間の創出を契機として創始された。公共空間は、民主主義や社会的に公正な資源配分からもたらされるが、造園学における史的研究の対象となる庭園には、各時代に権力と富を集中的に得た者たちが所有していたり、植民地で教化空間として用いられたりした例が含まれる。そして、造園学領域における既往の研究では、一部を除いて庭園の所有者と非所有者の間の非対称性を批判的に検討した例があまり見られない。ことに、わが国では前近代性を残存させた社会階級構造が成立し、富と権力の集中の結果でもある庭園の評価に基づく景観の価値形成が、社会階級構造の維持ひいては文化的再生産に結びつくことが懸念される。このような問題意識を持って、本研究は、造園学の研究と実践において庭園がどう扱われてきたかに着目し、そのことによる歴史認識が景観の価値形成とどう結びつき、そこにどのような問題が含まれるかについて考察するものである。