日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S203
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地理総合・地理探究と探究学習の相互環流
*石橋 生
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抄録

1.地理総合におけるパフォーマンス課題の設計

 アメリカのWigginsとMcTigheが提唱する「逆向き設計」論では,生徒は何ができるようになるのか,生徒にどういう経験をさせたいのかなど,学習者である生徒の視点を意識してカリキュラムに反映させ,教師は希望的観測ではなく,意図的設計を行うことが求められる。地理総合・地理探究の防災分野では,過去の災害を教えるだけでなく,将来,住む予定の居住地を探す際に,災害リスクを考察した上で,折り合いをつけて生活するという観点を大切にしたいと考えて,授業設計を行った。帝国書院の高校資料集『新詳地理資料COMPLETE 2023』巻頭特集2(巻頭pp.5-6)「GISと防災②-あなたならどこに住む?-」に掲載されている一人暮らしの物件探しについて,仮説と検証を繰り返しながら,WebGISである地理院地図や重ねるハザードマップを活用し,色別標高図を作成することをミッションとし,より積極的に楽しくGISと防災が学べる地理総合・地理探究のモデル授業,「物件探しから考察する災害リスク調査」を考案した。「逆向き設計」論に基づき,私は2020年から高校2年の地理A、高校2・3年の地理Bの授業でこのモデル授業を実施し,2023年から高校2年・中等5年共通(およそ1200名を対象)の地理総合の1学期のパフォーマンス課題として地理科全体で実施した。 本校では,アクティブラーニング型授業を個・協働・個の学習サイクルで実施している。文部科学省が進めるGIGAスクール構想によって,教育現場でICTが普及して,授業の効率化がさらに進むことが想定される。また,コロナ禍における,ICTを利活用したリアル(対面授業)とデジタル(オンライン授業)の融合は,学校現場における教育の多様化・可能性をさらに広げた。これらを背景として,アクティブラーニング型授業とICTを組み合わせた新しい防災教育を提案したいと考えた。

2.総合的な探究の時間とのつながり

 2022年から総合的な探究の時間が全国の学校でスタートしたが,本校では,その前身となる課題研究と未来への扉の授業で,私は2018年にGISゼミを立ち上げ,生徒と一緒にGISを活用した地域研究を行いながら,GISを活用した地理総合・地理探究のモデル授業の研究実践を行ってきた。GISゼミでは2020年にNHKの映像コンテンツを利活用した防災教育,防災小説やクロスロードなどのRPG防災教育,ICT教材を利活用した防災教育の3つの新しい防災教育を考案した。生徒と一緒にみんなのBOSAIプランを策定し,産学官連携を行いながら,研究を行ってきた。高校生を地域の頼れる防災リーダーに育て,高校生が指導者となり,高校生・中学生・小学生に向けて,次世代へつなぐ持続可能な防災教育を実施することが求められる。

3.地理の授業から生まれた研究プロジェクト

 2021年からはGISゼミとは別に,地理の授業から生徒主体で3つのプロジェクトが立ち上がり,研究指導を行ってきた。この3つのプロジェクトとは,海洋プラスチック問題に興味を持った生徒たちが立ち上げたSDGsプロジェクト(2021年・2022年),沖縄の修学旅行の学びをさらに深めたいと考えた生徒たちが立ち上げた沖縄プロジェクト(2022年・2023年),そして,現在,研究活動中である,メタバースに興味を持つ生徒たちが立ち上げた桐蔭地理メタバースプロジェクト(2023年)である。GISゼミ同様に,産学官連携を行い,これまで東京大学・慶應義塾大学や内閣府・国土交通省などへ生徒を引率し、専門家から研究アドバイスをいただきながら,研究を行ってきた。 大学入試制度が多様化し,総合型選抜の割合が増加傾向で,高校生の間にどのようなことに興味を持ち,研究して大学での学びにつなげられるのかが問われ,高校生の研究をさらに充実させるためには,学内にとどまらず,学外にもネットワークを広げて,生徒の可能性を広げる教育を実践すること,学習環境を整えることが求められる。

参考文献

石橋生 2022. 地理総合に向けた防災教育の提案. 日本私学教育研究所 紀要 第58号: 29-32.

石橋生 2022. 物件探しから考察する災害リスク調査.『社会科教育10月号 No.762』78-81. 明治図書.

石橋生 2023. GISと防災①②. 根元一幸・石橋生他『新詳地理資料COMPLETE 2023』巻頭3-6. 帝国書院.

Grant Wiggins, Jay McTighe著・西岡加名恵訳 2012.『理解をもたらすカリキュラム設計』日本標準.

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