日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P035
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砺波市郊外・田園地帯における飲食店の立地とその利用者特性
*山本 沙野香村田 華子山本 充
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抄録

近年,農村地域において景観や農産物を資源とする農家レストランや農村レストランの立地がみられる.主として農村振興や六次産業化への寄与を主題として,これらの経営実態や経済効果が把握されてきた.一方で,こうした飲食店の存在は,都市機能の一部の農村地帯への分散として位置づけることもできよう.今日,都市の中心が有していた都市機能の一部や多くが,郊外や農村地帯へと移転し,より広域の中で個々の領域が都市機能を分担しつつ,都市圏・生活圏が機能し成立している例がみられる.このような都市は,分散型都市として把握されており,砺波平野も同様の性格をもつとみなしうる. 本報告では,砺波平野の砺波市において,飲食店を都市機能のひとつとして位置づける.そして,飲食店が,都市の中心,郊外そしてその外側の田園地帯それぞれにおいて,どのように立地を変化させてきたのか,郊外と田園における立地はどのような背景を有するのか明らかにする.その上で,郊外と田園における飲食店はどのような属性の利用者をどこから集めているのか,すなわち,都市圏全体の中で,どのように機能しているのか明らかにする.  砺波市域を市街地の「中心」,それに隣接する「郊外」,その外側の「田園」に分類し, RESAS事業所立地動向により,それぞれの地帯ごとに2011年から2021年の飲食店数の変化を把握した. 中心では飲食店の数が大きく減少しているが、郊外ではやや増加しており、田園ではほとんど変化がない。中心で飲食店が減少しているとはいえ、飲食店が集中し,とりわけ「スナック・バー・酒場」が卓越している。しかし,年々「スナック・バー・酒場」の数は減少し,「その他レストラン」は微増し,「寿司」「和風飲食店」、「ラーメン・餃子」「中華料理」に変化はみられない。 郊外では、「その他レストラン」と「喫茶」が多く,「ファミリーレストラン」や「ラーメン・餃子」「中華料理」がやや増加している。田園では、「その他レストラン」「スナック・バー・酒場」の順で多い。「仕出し・弁当・宅配」が多いのも特徴であり,「その他レストラン」と「仕出し・弁当・宅配」は、やや増加傾向、「スナック・バー・酒場」は減少傾向にある。 砺波市の郊外2店,田園4店の飲食店において,出店の経緯などについて店主への聞き取り調査を行った.経営者にはUターンが3人,Iターンが1人いた.飲食店経営は地方移住者の1つの受け皿と考えられ,その新規出店にあたり,既存の市街地,中心以外にも郊外や田園地帯が選択されている.田園においては古民家の利用が2店,ログハウスの空き店舗利用が1店あり,前者は和を基調とした内装,後者は木組みを活かした内装を設えている.このような田園性の強調は,洋食店である郊外の2店でもみられ,双方とも南欧をイメージした建築ながらも前面に樹木,緑地を配していた.そして,和食店も洋食店も地元の食材を使用し,それをアピールする傾向にある. 聞き取り対象の飲食店において顧客へのアンケート調査を行い,合計312の回答を得た. 郊外の洋食店Aでは,女性比率が6割強と高く,家族と2人で来るケースが半数を超える.年齢層は,20代から70代以上までどの年齢層でもほぼ同じ比率であり,幅広い層に受け入れられている.また,2回目以上のリピーターが半数を占めている.店を知ったきっかけは,家族、友人、知人等の紹介が半数で,情報サイトやSNSは4分の1を占めるにすぎない.利用者の2割が砺波市内からで,富山市,高岡市からの顧客もそれぞれ2割を占める.数は減るが,南砺市,小矢部市と続き,金沢市からの訪問もあった.  田園の和食店Cにおいても,女性客が6割を占め,60代以上が6割強を占めている.家族での来店が半数近くを占めるが,3人以上が6割弱,リピーター率も4割を切るなど先の事例とは性格が異なる.一方,家族、友人、知人等の紹介が最も多く4割で,情報サイトやSNSは2割を占める.県内からの利用が7割で,砺波市1割,高岡市1割,富山市3割を占め.県外では東京圏,名古屋圏,北陸近県からの利用もあった.来店前後の立ち寄りは6割が行っており,観光施設が多い.  砺波市では,中心,郊外,田園で飲食店の種類ごとの立地傾向は異なっていた.そして,郊外と田園における飲食店の新規立地は移住者による側面があり,田園性を強調していた.郊外と田園の飲食店の利用者は砺波市内に限定されず,広域な商圏を有している.いずれにせよ,分散型都市の性格を有する砺波市において,中心,郊外.田園の飲食店は異なる機能を有し相互補完関係にあるとみられる.こうした状況が生まれた背景として,砺波市は,分散型都市の特徴である,自動車移動を前提としたグリッド型の交通ネットワークを持ち,砺波市内外からのアクセスが良く,高いモビリティが可能であることが挙げられる.

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