日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 211
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熊本平野沿岸部の後氷期における相対的海水準変動への応答
*大上 隆史丸山 正細矢 卓志
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抄録

はじめに

熊本平野周辺において近年に実施された活断層調査等によって,平野の地形発達を検討するための資料が得られつつある(産総研,2016;文科省・産総研,2020).筆者らは陸域および海域において実施されたボーリングデータにもとづいて,熊本平野沿岸部の層序と地形発達に関する予察的な検討結果を報告した(大上ほか,2022).本報告では,既存研究によって報告されたボーリングデータと年代資料にもとづき,熊本平野沿岸部における後氷期の地形発達に関する再検討結果を報告する.

熊本平野周辺におけるボーリング資料

既報のように,熊本平野に発達する完新世河川デルタの最奥部付近(熊本県上益城郡嘉島町)において実施されたボーリング調査(KA-1地点:産総研,2016)および,完新世河川デルタのプロデルタに位置する島原湾において実施された海上ボーリング調査(UTO-1地点,文科省・産総研,2020)よって,後氷期以降の堆積物の詳細な岩相変化と,堆積物の形成年代が明らかにされている.長谷ほか(2004)は,現在のデルタフロントプラットフォーム(干潟)において実施された全長61 mのボーリング調査の結果をとりまとめ,この地点における沖積層の連続的な岩相変化,堆積年代,火山灰の分布深度を明らかにしている.また,塚脇ほか(2002)および中原ほか(2002)は完新世河川デルタのデルタフロントスロープにおいて採取したピストンコアリングの結果をとりまとめ,岩相,堆積年代,堆積環境を報告している.

結果および考察

上述の調査報告と土木ボーリング資料(国土地盤情報検索サイト「KuniJiban」)にもとづいて,熊本平野から島原湾に至る地形・地質断面図を作成した.大上(2022)では,海上ボーリング調査(UTO1地点)とデルタ最奥部のボーリング調査(KA-1地点)における堆積年代をコントロールポイントとして,現在の地形および一般的なデルタのプロファイルを参考に,1,000年毎の同時間面を推定した.本報告では,長谷ほか(2004)ならびに,塚脇ほか(2002)および中原ほか(2002)の報告結果を反映して,同時間面をアップデートした. アップデートした地形・地質断面図によれば,完新世後半(4 ka以降)における河川デルタの前進速度は1.0〜1.5 m/yr程度であると推定される.他方で,後氷期の海水準上昇期(13 ka〜7 ka)においては,浅海〜河口付近で急速に堆積が進んだと推定される.その際の堆積速度は,島原湾(UTO-1地点)においては13 ka〜11 kaの期間が最も大きかった(約4 m/ky)と推定され,現在の河口付近においては11 ka〜9 ka の期間がもっとも大きかった可能性がある.さらに,デルタの最奥部(KA—1地点)においては,8 ka〜7 kaの期間に堆積速度がもっとも大きかったと推定される.これらのことから,後氷期の海水準の上昇に応答して堆積システムが陸側に移動し,それに伴って堆積中心も陸側にシフトしたと推察される.堆積中心が島原湾から現在の河口付近にシフトしたタイミングは11 ka前後と推定され,この変化は汎世界的な急激な海水準上昇イベント(MWP1b, 11.3 ka)に応答している可能性がある.

謝辞:本研究の実施にあたり,文部科学省委託事業「活断層評価の高度化・効率化のための調査」の一環で取得したデータを使用させていただきました.

参考文献:塚脇ほか2022.熊本大学理学部紀要(地球科学).中原ほか2002.熊本大学理学部紀要(地球科学).長谷ほか2004.熊本大学理学部紀要(地球科学).産総研 2016.「地域評価のための活断層調査(九州地域)」平成27年度成果報告書.文科省・産総研 2020.「活断層評価の高度化・効率化のための調査」令和元年度報告書.大上ほか2022.2022年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨集.

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