中国中部地域の農村出身者を対象として,出稼ぎ労働からの帰還理由と将来の定住希望地についての検討を行った.出稼ぎ労働者の中には,大都市での出稼ぎ生活を終えた後で,出身地に近い中小規模都市への定住を希望する人が多い.出稼ぎ労働者らは,大都市で就業・居住する際には高い収入が得られるものの,住宅費などの生活費も多くかかることや,公共サービスを受けるために必要な戸籍や持ち家の取得も難しいという制約も存在している.これに対して,出身地に近い中小規模都市であれば,戸籍の取得が容易で,出稼ぎ労働者の収入でも住宅も購入可能であり,親世代の介護や子どもに公教育を受けさせることもできる.このように出身地に近い中小規模都市を定住先として選ぶことは,都市生活のメリットと出身地への近接性から得られるメリットの双方をある程度享受することができる.近年では,中国政府による「新型都市化計画」と呼ばれる中小規模都市への定住促進政策が進展しており,これらの都市では交通インフラ等の整備が進み,教育や医療サービスの質も向上している.そのため出稼ぎ労働者らが,このような都市に定住することには,ある程度の妥当性もあると考えられる.また,出稼ぎ先地域の現実を踏まえた上での,出稼ぎ労働者自身による主体的な判断による意思決定という側面もある.以上のことから今後も,出稼ぎ労働者らの省内レベルでの移動が増加することが予測される.