日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S104
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世界地誌学習の現状とヨーロッパ理解の課題―学習指導要領の分析を通して―
*戸井田 克己
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抄録

はじめに

 ヨーロッパに関する地誌学習は、学習指導要領上は主として中学校地理的分野の内容B「世界の様々な地域」の、(2)「 世界の諸地域」に示されている「②ヨーロッパ」と、高校「地理探究」の内容B「現代世界の地誌的考察」の、(2)「 現代世界の諸地域」で扱われることになる。なお、高校「地理総合」の教科書の中にはヨーロッパ地誌に相当の紙幅を割いているものも見られるが、学習指導要領の記述としては、「地理総合」でヨーロッパ地誌を扱う必然性は見当たらない

 本報告では、中学校地理的分野(以下、中学地理)と高校「地理探究」(以下、高校地理)の学習指導要領および同解説の記述内容を整理し、ヨーロッパ地誌の学習に関する今後の課題について考える。

中学地理でのヨーロッパの扱い

 中学地理では、学習対象として、①アジア、②ヨーロッパ、③アフリカ、④北アメリカ、⑤南アメリカ、⑥オセアニアの6州を示した上で、身に付けるべき知識として、「①から⑥までの世界の各州に暮らす人々の生活を基に、各州の地域的特色を大観し理解すること」を、身に付けるべき思考力、判断力、表現力等として、「①から⑥までの各州において、地域で見られる地球的課題の要因や影響を、州という地域の広がりや地域内の結び付きなどに着目して、それらの地域的特色と関連付けて多面的・多角的に考察し、表現すること」を挙げている。

 また、内容の取扱いで、「(各州で)特徴的に見られる地球的課題と関連付けて取り上げること」や、その地球的課題については、「地域間の共通性に気付き、我が国の国土の認識を深め、持続可能な社会づくりを考える上で効果的であるという観点から設定すること」としている。

高校地理でのヨーロッパの扱い

 高校地理(「地理探究」)では、学習対象としての地域を具体的に示さずに、前の中項目(1)で、各種の主題図や資料を踏まえて様々な地域区分を行ったことを受け身に付けるべき知識として、「幾つかの地域に区分した現代世界の諸地域を基に、諸地域に見られる地域的特色や地球的課題などについて理解すること」や「幾つかの地域に区分した現代世界の諸地域を基に、地域の結び付き、構造や変容などを地誌的に考察する方法などについて理解すること」を、また、身に付けるべき思考力、判断力、表現力等として、「現代世界の諸地域について、地域の結び付き、構造や変容などに着目して、主題を設定し、地域的特色や地球的課題などを多面的・多角的に考察し、表現すること」を挙げている。

 また、内容の取扱いで、「(中学地理での州を単位とした取り上げ方とは異なり、前の中項目(1)で学習した)地域区分を踏まえるとともに、様々な規模の地域を世界全体から偏りなく取り上げるようにすること。また、取り上げた地域の多様な事象を項目ごとに整理して考察する地誌、取り上げた地域の特色ある事象と他の事象を有機的に関連付けて考察する地誌、対照的又は類似的な性格の二つの地域を比較して考察する地誌の考察方法を用いて学習できるよう工夫すること」としている。

ヨーロッパ地誌において学習指導要領解説が示す事例

 中学地理では、学習指導要領解説は、ヨーロッパ州の「主題例」として「国家統合、文化の多様性に関わる課題など」が想定されるとした上で、以下のように解説している。

 すなわち、「ヨーロッパ州を大観する学習を踏まえて、例えば、ヨーロッパ連合(以下、EUという。)を対象に「EUはどのような経緯でその構成国を変化させてきたのか」、「EUの構成国内で、なぜ分離や独立などの動きが見られるのか」などといった問いを立て、前者の場合、EUの空間的広がり、EU統合の歴史的背景、EU統合がもたらす成果と課題などを地域の人々の生活と関連付けて多面的・多角的に考察して、国家間の結び付きに関わる一般的課題とEUにおける地域特有の課題とを捉える。」(p.50)と。

 一方、高校地理では、前掲下線部の「主題を設定し、地域的特色や地球的課題などを多面的・多角的に考察し、表現すること」について、「ここで取り上げる主題として、「欧州連合(EU)経済圏の変容」などが考えられる。例えば、「なぜ、ヨーロッパで分裂と統合が見られるのだろうか」といった問いを立てて、EU域内の経済的な地域格差、政治的動向、民族・宗教などの諸事象を有機的に関連付けて考察するような学習活動が考えられる。」(p.107)と。

今後、求められる学習指導要領の方向性

 学習指導要領および同解説のこうした記述内容を検討した上で、発表当日は、今後のヨーロッパ地誌の学習に求められる「内容」のあり方について考えたい。

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