主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2023/09/16 - 2023/09/19
自然から見て,ヨーロッパが,人類の活動舞台として有利な点,不利な点を列挙して,討議すること,デンマルクの農牧の特色を調べ,わが国の農牧業で,見習うべき点があるかどうかについて,討議すること,北部・東部・中部・南部ヨーロッパの気候の特色を明らかに示す図表を,気温・雨量表から作ること,われわれの日常生活に,ヨーロッパ人の生活様式が,どのように取り入れられているかを調べて,討議すること。これは今から約75年前に我が国で導入された教科としての社会科において,中学校の第2学年での学習活動例として示されたヨーロッパ学習の在り方である。上記の学習活動例は1947年の学習指導要領上の単元一「世界の農牧生産はどのように行われているか」の教材(五)「古くから居住されて来た諸大陸では,農牧業は,どのように行われているか」の中で期待される学習の在り方であった。同じく単元三「近代工業は,どのように発展し,社会の状態や活動に,どんな影響を与えて来たか」では教材(三)「世界の大工業地帯ではどんな工業が行われているか」の中で「ヨーロッパの工業地帯は,どんな特色を持っているか」について「中部及び西部ヨーロッパを流れる河川が,工業の発達に,どんな便利を与えているかについて調べること」,「ヨーロッパの代表的都市の人口に関する資料を集めて,産業革命以後どんな急速な人口増加が起って来たかを示す図表を作ること」などの学習活動例が示されていた。地理教育が社会科の中で進められるようになった約75年前は現在の中学校での分野制や地域ごとに整理された形式での学習ではなく,テーマや主題を基盤として空間的には混在する形で地域ごとの特色よりも主題への追究を主眼とした学習を進めることが期待されていた。 中学校の社会科は当初は一般社会科とも呼ばれたように,現在のような分野ごとに分化した形ではなく,例えば1951年の学習指導要領では第1学年が「われわれの生活圏」,第2学年が「近代産業時代の生活」,第3学年が「民主的生活の発展」との学年主題のもとで,地域だけでなく諸学問の成果も混在する学びを追い求めてきた。しかしながら,このような混在する学びに対する学校現場からの批判は強く,1956年2月に示された学習指導要領からは現在まで続く分野制がしかれ,ヨーロッパ理解に関わる学習も地域的に整理された形での学びが定着していくことになる。現行の中学校の学習指導要領上では,地理的分野の内容B「世界の様々な地域」の(2)世界の諸地域の中で,アジア・アフリカ・北アメリカ・南アメリカ・オセアニアと並んで州としてのヨーロッパを取り上げて,空間的相互依存作用や地域などに着目して,主題を設けて課題を追究したり解決したりする活動を通して,世界各地で顕在化している地球的課題は,それが見られる地域の地域的特色の影響を受けて,現れ方が異なることを理解すること,各州に暮らす人々の生活を基に,各州の地域的特色を大観し理解すること,地域で見られる地球的課題の要因や影響を,州という地域の広がりや地域内の結び付きなどに着目して,それらの地域的特色と関連付けて多面的・多角的に考察し,表現することが期待されている。このように州ごとに整理された学びを固定化しすぎずに,あくまでも暫定的な整理の中での学習や理解を我々は現在の世界や社会の中で進めていることを,いかに学校の中で自覚化していけるかが,地理教育からみたヨーロッパ理解の課題である。