日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 433
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佐賀県杵島郡大町町における洪水災害による重複被災と被災者支援に関する研究
令和元年8月豪雨と令和3年8月豪雨を事例として
*坪井 塑太郎
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抄録

1.はじめに

 近年,わが国では災害多発に伴い,被災後の復興・再建過程において同地域で再び被災する重複被災(Duplicate damage)の事例が増加している。たとえば,千葉県では2019年9月の台風第15号による被災後,翌10月には台風第19号により再び被災した事例や,熊本県での2016年4月の熊本地震後,6月に発生したの豪雨災害や,2020年の令和2年7月豪雨による被災などが知られている。しかし,被災者支援制度の点からは,重複被災であっても,制度上,個々の災害での対応が行われるため,被災社会全体を包括的に把握することが困難な状況がみられる。さらに,2020年4月に発令された新型コロナウィルス感染症対応の緊急事態宣言により,同年以降に発生した災害では,被災だけにとどまらず,外部からの支援活動等において行動制約等が発生したことにより,この間における重複被災の記録や,被災者の個別性を考慮した生活復興のための支援方策の記録については整理が及んでいない点もある。 本研究では,上記の課題意識のもと,災害による経験の継承と社会化に向け,令和元年(2019)8月と,令和3年(2021)8月にそれぞれ,大規模な内水氾濫により重複被災した佐賀県杵島郡大町町を対象として,被災者の視点から被害や避難の実態と課題を示すと同時に,被災者支援組織の立場から,生活復興に向けた支援体制の方法,構造を明らかにすることを目的とする。

2.研究・調査方法

 本研究では,,被災者支援団体が所有する被災者台帳(支援台帳)に記載された350世帯を対象とし,2022年5月より支援活動(声掛け訪問)の一環として質問紙調査票を用いて全戸訪問にて実施し,225世帯(242人)から回答を得た(世帯回収率:64.3%)。 3.重複被災状況とNPO等による拠点型支援  両災害において,ともに「床上浸水」となったのは90世帯(59.6%)に上り,令和3年(2021)8月では,JR九州佐世保線以北地域にその範囲が拡大している。また,同時期のボランティア延べ人数は,COVID-19の感染拡大の影響により,令和元年(2019)8月の2,909人に比べ, 654人と77.5%減少した。しかし,町内の公民館等を利用して専門技術系NPOと自治会による支援拠点が設置され,同拠点を基軸に,炊き出しや清掃道具の貸出し,相談支援等が行われたほか,被災世帯に対し積極的な声掛け訪問等が行われるなど,支援体制が「見える化」していたことから,ボランティア等が少ない状況下においても被災者の生活再建支援が進行できたことが想定される。さらに,「行政(保健師)」,「社会福祉協議会(災害VC)」, 「NPO等支援組織」の三者による情報共有会議が継続的に実施され,被災者の個別性を考慮した支援が実施された。

4.結論と課題

 本研究対象地では,令和元年(2019)8月豪雨以降に,大町町により全世帯に防災ラジオが配布・配備され,令和3年(2021)8月豪雨時には,これによる情報取得率は,78.0%と高く示された一方,両災害での避難行動には明瞭な行動の変化がみられず,今後においては早期の避難促進のための具体的方策や,避難方法,避難場所の再検討が求められる結果となった。

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