日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P032
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中学校社会科授業におけるGIS活用の事例
-MeshDataView3Dを利用したメッシュマップ作成-
*桐村 喬奥村 裕
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抄録

I はじめに

2022年度から高校で必履修化された地理総合の授業が開始され,2023年度からは地理探究の授業が始まっている.地理総合では,GISが重要なテーマとして取り扱われている.一方,高校の地理総合に接続する形となる,中学校社会科の地理的分野でも,GISを活用した学習が求められている.中学校学習指導要領(平成29年告示)では,地理的技能に関わる箇所で,地理空間情報を適切に取り扱うことが求められ,学習指導要領解説には,その際に利用するものとして,RESASやe-Stat,地理院地図などが挙げられている.

中学校および高校では,GISの積極的な活用が求められているものの,学校の情報通信環境は十分とはいえない状況にあった.しかし,文部科学省のGIGAスクール構想やCOVID-19感染拡大によるオンライン授業の推進などにより,急速に情報通信環境は改善されており,結果的に,GISを活用した地理学習の展開が後押しされている.

ところで,発表者のうちの桐村は,e-Statからダウンロードできる,メッシュ単位のCSV形式のデータを,ドラッグアンドドロップで地図化できるツール「MeshDataView3D」(以下,本ツールとする)を開発した(桐村 2021).このツールはArcGIS API for JavaScriptを使用しており,インターネットに接続された環境であれば,GISソフトをインストールすることなく使用できる.2023年3月に,中学生に対してGISを活用した授業を行う機会を得たため,本ツールを活用したメッシュマップの作成を行うこととした.本発表では,中学校の社会科授業における本ツールの活用事例について示すとともに,その成果と課題について報告する.

II 中学校社会科授業でのMeshDataView3Dの活用と課題

授業は,三重県にある皇學館中学校の生徒に対して2023年3月2日に皇學館大学の情報教室を使用して行った.これは,当時,桐村が所属していた皇學館大学との中大連携授業の一環として行われたものであり,皇學館中学校の奥村からの依頼で,GIS体験に関する授業を行うこととなった.この授業を受講した中学生は1年生であり,地理的分野の学習をほぼ1年間進めてきた生徒である.

授業では,まずGISの概要について簡単に紹介し,GISが活用されている身近な事例を紹介した.そのうえで,本ツールの使い方について,こちらで事前に用意しておいたデータを使用して解説しながら,生徒にパソコンを操作してもらった.解説では,65歳以上人口の実数と比率のメッシュマップの見え方の違いも観察してもらった.残りの時間では,自由に指標を選んでもらい,様々な色や表現によるメッシュマップを作成してもらうようにした.

授業の最後に実施したアンケート結果からは,パソコンの操作は,半数程度の生徒がそれほど得意ではないということであったものの,76.5%の生徒が本ツールの操作は簡単と感じており,64.7%の生徒が3Dのメッシュマップを作ってみて面白いと感じていることがわかった.また,将来,中学校や高校での授業でGISをもっと使ってみたいかという問いに対しては,64.7%が「そう思う」と回答しており,GISに対する関心の高さがうかがえた.

一方,桐村が授業中の生徒の状況を観察した限りにおいては,どのような指標を地図化すればどのようなことが読み取れるのかという部分まで考えることができている生徒は少数であった.むしろ,3Dのメッシュマップという視覚的な驚きのある表現に関心が向いているように感じられた.1年生の段階では,高齢者比率や人口分布など,より基本的な指標の地図化のみとし,より多くの地域で比較してもらうほうが学習効果は高いのかもしれない.

III 今後の方向性

アンケート結果からは,本ツールの操作が簡単であったという回答が多かった.したがって,本ツールは,GISソフトの操作というハードルをそれほど感じることなく,GISを触ってみることができるツールといえる.操作が簡単であることから,中学校だけでなく,高校の地理総合や地理探究,必履修化された情報Ⅰの授業などにおいても応用可能と考えられ,今後は,それらの授業での活用事例の蓄積が必要と考えられる.

また,教員による教材の準備という点でもメリットがある.e-StatからダウンロードできるCSV形式のデータについては,Excelで加工でき,特別なソフトなどを必要としない.また,1次メッシュ単位で分割されている統計データをマージしたり,複数の表の統計データを結合したりすることも本ツール上で行うことができるため,教材準備の負担を軽減できる.

今後は,より軽快に動作する2D版の開発を含め,様々な場面で活用できるようにしつつ,授業での活用も可能な範囲で行っていきたい.

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