日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 233
会議情報

静岡県伊豆地域の温泉地におけるCovid-19の影響
*初澤 敏生
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに

 Covid-19の流行は、各国の経済に大きな打撃を与えた。特に観光地においては外国人観光客などの入込が大幅に減少している。しかし、その影響に関してはまだ十分に調査されていない。本報告では、静岡県伊豆地域の温泉地を対象として、Covid-19の影響について検討したい。

2.静岡県における観光交流客数の動向

 静岡県観光統計によれば、静岡県の観光交流客数は2000年には約1億2千万人だったが、その後漸増し、2017年に1億5600万人でピークに達する。コロナ禍直前の2019年は1億4千700万人だったが、2020年には8300万人に減少、2021年も9600万人にとどまっている。これを地区別にみると、最も多いのが伊豆地域である。伊豆地域の観光交流客数は2000年には約4400万人であったがその後減少し、2011年には3670万人程度まで減少する。その後は再び増加に転じ、2017年には4700万人台に達する。コロナ禍直前の2019年は4400万人台で推移したが、2020年には2300万人にまで減少、2021年も2600万人台にとどまる。

 これを宿泊客数でみると、静岡県全体では2000年に約2千万人であったが、その後漸減し、2011年に1680万人で底を打つ。その後は増加に転じ、2019年には2000万人弱の水準にまで回復するが、2020年は1000万人と半減、2021年も1300万人にとどまる。伊豆地域の宿泊客数も、全県と類似する動きを示す。2000年代初頭は1300万人台で推移していたが、その後は漸減し、2011年には1000万人を割り込む、その後増加に転じ、2017年には1140万人台になるが、2020年には590万人に減少、2021年も700万人にとどまる。

3.伊豆地域の温泉旅館の動向

 これをさらに細かく見るため、伊豆地域の温泉旅館の動きについて検討する。なお、ここで対象とするのは静岡県熱海市(22旅館)、伊東市(23旅館)、下田市(9旅館)、伊豆市(31旅館)の85 温泉旅館である。使用するデータは帝国データバンクが調査したもので、本報告では2019年と2021年の各旅館の従業員数と売上高を中心に分析を行う。

 まず、85旅館の売上高の変化をみると、その合計額は2019年の341億8300万円から2021年の241億700万円へと約100億円の減少を示している。85旅館中72旅館が売り上げを減少させる一方で、6旅館は売り上げを増加させている。これを減少(増加)率と2019年の売上高との関係からみると、売り上げの減少率と売上高との間には明確な相関は認められないが、売り上げの大きな旅館の減少率が相対的にやや高くなっている。

 一方、従業員数についてみると、同期間に1790人から1721人へと69人、比率にして約4%の減少にとどまる。売上高が約3割減少していることに比べれば、わずかな減少にとどまっているといえる。これを旅館単位でみると、従業員を減少させた旅館は12、増加させた旅館が7となる。ほとんどの旅館は従業員数を変動させていない。コロナ禍の中でも多くの旅館は従業員の雇用を守ることを優先させたものと考えられる。

著者関連情報
© 2023 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top