日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 120
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複数のデジタルメディアを用いた地形教育のオープン教材の試作
*山内 啓之小口 高小倉 拓郎
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抄録

地形教育は、自然環境や災害の理解のために重要であり、初・中等教育の授業、大学の地理学科や教員養成課程などで幅広く行われている。地形教育では、地形図を学習者に提示して地形を立体的に理解させたり、扇状地や自然堤防といった地形の種類を判読させたりしながら、地形の特徴や発達過程などを教員が解説する。教科書や資料集には、地形を解説する文章のほかに、模式図、空中写真、景観写真などが掲載されており、地形をわかりやすく学習者に説明する手法が検討されてきた。近年では、二次元・三次元表示のGIS(Geographic Information Systems)を用いて、学習者の地形の理解の向上を図る事例もあり、地形教育でのデジタルメディアの活用に注目が集まっている。地形教育では、デジタルの図表、写真、動画のみでなく、全天球画像、メタバースコンテンツ、AR(Augmented Reality)アプリケーションなどの活用も期待される。一方で、上記のようなデジタルメディアは、地形教育において一長一短がある。例えば、GISでの地形の閲覧は日常で地形を眺めるような感覚とは異なり、スケール感や解像度によって視認性が変化する。さらに、地理情報を適切に表示する技能が必要であるため、アプリケーションの操作の煩雑さが問題になる場合もある。また、インターネット上の写真や動画などは比較的容易に高等学校や大学の授業で利用しやすいものの、利用規約が設定されていなかったり、内容に誤りが含まれていたりすることもある。 そこで演者らは、複数のデジタルメディアを活用して、地形教育の教材を構築し、誰もが利用できるように整備するプロジェクトを開始した。教材は、高等学校の「地理総合」の小地形の教育と関連する内容とし、解説は高校生が理解できるレベルを想定した。現在までに、河川地形の教材を試作した。教材は、Markdown形式で作成し、HTMLに変換して利用するものとした。将来的には、演者らが運用する「GIS実習オープン教材」(https://gis-oer.github.io/gitbook/book/)の一部として公開する予定である。 教材の解説は、河川地形の概要を表示するページをトップページとし、その下層に「扇状地」、「自然堤防・後背湿地・三日月湖など」、「三角州」の3つページを作成した。これらのページにある解説は、「地形の特徴」、「土地利用」の節で構成した。今後、「自然災害」の節を追加する予定である。 「地形の特徴」は、「地形の概要」、「地形のでき方」、「判読方法」の3項で構成し、適宜、自作の模式図、写真、二次元・三次元表のWeb地図、全天球画像などのデジタルメディアを用いて地形を解説した。「土地利用」と「自然災害」は、扇状地や自然堤防のような地形の種類に合わせて、2~3の事例をあげて二次元表示のWeb地図などを活用して、解説するものとした。 演者らは、2つの大学の地形の授業において、試作した教材を使用した。授業後に、複数のデジタルメディアを用いた授業や、教材に用いた各デジタルメディアが学習に与える影響を評価するため、アンケート調査を実施した。アンケートでは、「複数のデジタルメディアを用いた授業」を五段階で評価してもらう質問に対し、48人中43人(90%)が、「好感がもてる」または、「やや好感がもてる」と評価し、他の5人は「どちらともいえない」、「やや好感が持てない」、「好感がもてない」のいずれかを回答した。「地形の学習に役立ったデジタルメディア」を選択して1つ以上回答する質問では、三次元表示のWeb地図、二次元表示のWeb地図、模式図の順で評価が高かった。 他方で、その後に行った地図から地形の種類を読み取るテストでは、設問の正答率が65~75%であった。回答者のなかには、授業後も扇状地と三角州の違いがわからない学生もいた(48人中15人(31%))。 本研究では、複数のデジタルメディアを授業に活用することで学生の地形の理解を向上できる可能性を示した。しかし、一部の学生は授業後も地形の理解が不十分であった。このような学習の進度の個人差を軽減するには、教材を授業のみでなく予習や復習などの個人学習でも利用できるように改良することが望ましいと考えられる。

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