日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 619
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埼玉県における近代の町並み景観形成と大火復興 ~大火記録からの検討~
*髙橋 珠州彦
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抄録

自然災害によって壊滅的な影響を受けた地域は,その復興により新たな景観を生み出す.ことに大火は,木造建築が都市景観の主たる構成要素である地域や時代において,その影響は甚大である.1923(大正12)年に発生した関東大震災の影響をうけた東京では,復興にあたり建物の不燃化がすすめられたばかりか,街路拡幅や区画整理事業などが行われ,都市全体に多大な変化をもたらした.また,1893(明治26)年に大火を経験した埼玉県川越では,大火からの復興にあたり,土蔵造り建造物の耐火性能に関心が高まったことにもあり,大火後の町並みは土蔵造りの町家が建ち並ぶものとなった.川越の土蔵造り建造物の町並みは,今日重要伝統的建造物群保存地区に選定されたほか,当該地域の重要な観光資源にもなっていることはよく知られている.本研究はこうした事例を参考に,日本国内の地方都市における近代の町並み景観を検証しようとする科研費「大火からの復興を通してみた近代の町並み再評価」(21H04579)の共同研究の一環である.

埼玉県内における大火の記録と大火復興後に形成された町並み景観とを検証すると,必ずしも大火後に川越のような耐火性能に優れた建造物が卓越する町並みが形成されるとは限らず,銅板や土壁,石材など耐火性能が高いとされる建材を装飾的に用いる場合が少なくないことが明らかとなった.また,大火発生時期によっては,モルタルやタイルなどを用いた看板建築や,長屋状の建造物によって再建される事例も確認できた.さらに,大火が複数回発生した地域では,復興時期の違いによって耐火建造物の景観が形成され,重層的で複雑な町並み景観を形成していることが確認できた.

 『日本の大火』や『消防発達史』といった大火の記録は,網羅的に大火の状況を把握することが可能である一方,大火の詳細な点については相違点も多い.そのため個別の地域事例を詳細に検討するにあたって,在地の資料での確認が不可欠となる.今後は,複数の大火記録から延焼範囲などが特定できる地域を選定し,時代ごとに異なる復興後の町並み景観の特徴把握を進めていく必要がある.また,土蔵造りに限らず,銅板や石材,レンガを用いた建造物の普及についても具体的な検討を行うこととする.

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