日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 408
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大阪市における納骨堂の増加
―墓地供給主体に着目して―
*本多 忠素
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抄録

1. はじめに

近年,日本において墓は多様化しており,樹木葬墓地や合葬による永代供養墓など選択肢が増えている.こうした変化は,都市の墓地のあり方にも表れている.特に都市部において新規墓地の開設は,一定の広さを持つ土地を確保したり,設置のための法的要件を満たしたりする必要があるため容易ではない.その一方で,遺骨を収蔵する施設である納骨堂は増加しつつある.

こうした墓の多様化のほか,近年では信仰の希薄化も進行しており,これらは墓石や宗教用具の市場動向にも表れている.墓石を含む石工品製造業の出荷額や,仏壇などの宗教用具の販売額は,1990年代以降大幅に減少している.また,宗勢調査からは多くの寺院が,檀家の減少により財政的苦難にあることが明らかになっている.これらを踏まえ本研究は,都市の納骨堂の増加を,1990年以降の墓地・納骨堂の供給主体の動向から把握することで,利用者による墓需要だけでなく,供給主体の経営的状況を踏まえた墓の多様化の動向を考察することを目的とする.

2. 先行研究

 現代の墓地に関する研究は,民俗学や社会学などの分野で墓制や祭祀性等の議論があるほか,地理学においても墓地の立地をはじめとした研究がなされてきた.しかし,墓の選択が多様化する中で,墓石が配された墓という形態以外の「墓」の空間的様相は十分に論じられてこなかった.加えて,行政や民間,他学問分野における今日の墓需要の分析はしばしばみられるものの,その供給主体から論じたものは少ない.こうした先行研究の傾向を踏まえ,本研究では都市部における納骨堂の増加の背景を,供給主体に着目して検討した.

3. 研究対象と調査方法

本研究の調査対象地域は,近年の納骨堂の施設数の増加率が著しく動向がより観察しやすい大阪市とした.研究対象については,納骨堂の施設増加は宗教法人による設置が大半であり,そのなかでも多くが仏教寺院によるものであることから,公営や財団運営などのものを除いて仏教寺院に絞った.そのうえで寺院や石材店,仏具店,納骨壇製造業者等への聞き取りを行い,それら供給の様態と納骨堂の増加が進む背景を把握することとした.

4. 結果と考察

聞き取りからは,寺院,石材店,仏具店の三者で,各事業の財政的状況を改善しようとする工夫が確認された.そうした供給側の工夫が,利用者による多様な墓需要以外での,納骨堂の増加の一要因となっている.また,こうした納骨堂を所有する寺院の内訳からは,宗旨や祭祀性といった寺院の宗教性と納骨堂の所有との間の関連を認めることはできなかった.これは東京都23区を対象とした横田・八木澤(1990)の指摘とも符合する.しかし,30年前の東京などの都市において,納骨堂は一時的な遺骨の預け先という旧来のイメージ(横田・八木澤 1990:264)であったが,今日では恒久的な利用が一般化している.このように墓地や葬送のあり方は,半世紀足らずで既に異なる様相を呈しており,それらの研究分野ではこうした今日的変化に対して,より一層の注意が必要であると思われる.

今後は,大阪府の郊外・農村部にも調査対象範囲を広げることで,納骨堂の増加の地域的特徴を明らかにし,加えて納骨堂を墓地と比較して,その景観的,形態的特徴を考察することを課題としたい.

参考文献 

横田 睦, 八木澤 壮一 1990. 納骨施設の現状からみた,東京都区部における墓地以外の祭祀空間に関する考察. 都市計画論文集25: 259-264.

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