日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P022
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千葉ニュータウンにおける21世紀初頭の居住地選択の新しい動向
*稲田 大晟坪本 裕之若林 芳樹
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抄録

千葉ニュータウン(以下,千葉NT)は,多摩,港北とならぶ首都圏の大規模ニュータウンの一つとして長期にわたって開発が進められてきた.その間に用地買収の難航や住宅需要の変化にともない,特定業務施設用地や複合的土地利用を導入するなどの計画変更がなされた結果,商業・業務用地の面積割合が多摩・港北に比べて極めて高くなっている.また,鉄道路線が延長されて成田市へのアクセスが高まったり,大規模物流施設やデータセンターが立地するなど,2000年代に入ってから新たな動きがみられる.1990年代までの居住者の住居選択については,田口(2001)や伊藤(2001)などによって明らかにされたが,こうした2000年以降の動向が居住地選択にどのような影響を与えたかについて検討した研究はみられない.そこで本研究は,千葉ニュータウン居住者に質問紙調査とヒアリングを実施し,居住地選択の新たな動きとその背景を検討した.

 本研究で用いる主なデータは,2022年10月に実施した質問紙調査から得られたものである.調査対象は千葉NT中央駅圏と印西牧の原駅圏に居住する世帯の世帯主またはその配偶者である.住区ごとに50~100軒ずつ合計1000軒にポスティング形式で依頼状を配布した.回答はGoogleフォームを用いたオンライン形式で行い,回収数は94件(回収率は9.4%)であった.質問内容は,個人・世帯属性,就業(労働状態,現在の就業地,片道の所要時間,通勤手段,現在の職業を),住まいの状況(入居時期,前住地,住居形態の変化,転居理由,転居の際の他の候補地,千葉ニュータウンを選んだ理由)であった.個別調査に応じてもよいと答えた回答者には,Zoomまたはメールでの追加調査を実施し,10人に対してメールで聞き取り調査を実施し,より詳しい入居の経緯や就業状況について質問した.質問項目のうち,千葉NTを選んだ理由(4段階評価)を変数としたWard法クラスター分析を行い,回答者を4つに類型化して分析を行った.

 クラスター分析によって4つに分類された回答者の類型は,次のように特徴付けられる.

 クラスター1(28人)は,生活施設の利便性を求めて千葉NTを選んでおり,牧の原地区などに近年入居した若い子育て世帯が多い.これに対しクラスター2(38人)は木刈地区の居住者が多く,広い持ち家を求めて入居した人々で,北総線の都心直通前や近隣に商業施設が立地する前の不便な時期に流入した世帯が多い.クラスター3(17人)は,内野・原山・高花地区に居住している人が多く,千葉NT独自の魅力を求めて入居したわけではなく,勤務先が近いことや家賃が安いなどの理由で入居した高齢世帯が多い.クラスター4(11人)は,千葉NT内で住み替えた人が多い.

 1990年代に調査された先行研究では,千葉NT入居者の多くは広い持ち家住宅が比較的安価に購入できることを主たる理由に挙げていたが,それは本研究ではクラスター2に該当し,千葉県内から転居した人が多くを占める.それから20年を経て,その他のクラスターに含まれる新たなタイプの入居者が表れている.

 クラスター1のような生活の利便性を求めて入居した世帯が現れたのは,NT内に大型商業施設が進出したり,医療や子育てなどの公共サービスも充実してきたことが背景にある.また,北総線が延伸して成田方面へのアクセスも向上したことから,通勤先も多様化している.先行研究にもみられた特徴をもつクラスター2には,1990年代以前から継続居住している高齢者と最近入居した若い核家族世帯が含まれる.前者には加齢によって就業状態が変化した人も少なくなく,エレベーターの無い住居から戸建住宅や集合住宅の1階へ転居したり,駅に近い住宅に移った人もみられる.クラスター3には,東京方面から移り住んだ人が多く,親戚や知人の近くに住むためといった住環境以外の個人的な理由で転入した人が含まれ,賃貸居住者も少なくない.クラスター4は,住み慣れた千葉NTでライフステージの進行とともに子育てや在宅勤務を契機に住み替えた人たちで,NTの成熟とともに今後は増えていくことが予想される.

 以上のように,先行研究が対象とした1990年代に比べると,千葉NT居住者の入居理由や就業先は多様化している.その背景には,NT内の生活施設の充実や,初期入居者の加齢,近隣に就業機会が増えたりテレワークが普及したこと,ならびに鉄道の利便性が向上したことなどがあると考えられる.

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