日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 142
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石垣島の水環境に関する水文地理学的研究
水文誌と長期間の調査結果から
*小寺 浩二三浦 エリカ花田 心吾王 操
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抄録

Ⅰ はじめに

 日本の島嶼の中でも、日本の最南西端にあり、亜熱帯気候に属する八重山諸島では、周囲をサンゴ礁が囲むなど、特殊な海域環境があり、赤土流出など、陸域から流出する土砂や栄養塩などの影響が懸念され、古くから調査・研究が行われてきた。 法政大学水文地理学研究室でも、2007年から調査をはじめ、3カ月ごとの全島調査を数年、1月ごとの定点調査を数年、豪雨時の影響調査を数回行い、報告してきたが、最近では、新たなリゾート開発や自衛隊基地建設に伴う影響などが懸念され、地元の市民団体と連携しながら、新たな定点観測を数年続けている。 今回は、それら全ての調査結果を改めて整理し、石垣島の水文誌の内容を深めた上で、水環境の変遷・現状・課題を明確にし、今後の調査・研究への指針を示す。

Ⅱ 研究方法

 2007年の予備調査の結果から定点を定め、2008年5月から約3カ月おきに約2年間、50~100地点で現地調査と採水を行った。 2010年9月の台風接近時には、9地点の24時間毎の調査と5地点の3時間毎の調査を行い、イベント前後の変化を集中的に観測した。現地では、気温、水温、pH、RpH、電気伝導度(EC)、CODを測定し、研究室では濾過後、再度ECの測定、TOC、イオンクロマトグラフィーによる主要溶存成分分析を行った。 さらに、現地市民の協力により、2009年5月~2010年10月の期間には、主要河川下流を中心に毎月15カ所で、2019年2月からは宮良川・名蔵川・新川川の約10地点で毎月サンプリングをお願いし、同様の分析を行った。 また、水文現象に関わる地質・地形・気候気象・土地利用・農業・産業などの情報を整理し、水文誌を作成したうえで、石垣島の水環境全般の特性を示した。

Ⅲ 結果と考察

 1.全島調査

 全島のほとんどすべての河川について、平均約80カ所において様々な季節に調査した結果をまとめると、それぞれの地域・河川の特性が明確になった。水質には、地形・地質・土地利用の違いが明確に表れ、北部や西部の小河川では海塩の影響が大きく、 於茂登北部の荒川などでは、花崗岩の影響が強い。また、宮良川・名蔵川・轟川・新川川などでは、土地利用などの人間活動の影響が強く表れている。

 2.イベント調査

 降雨後にはECは急激に低下し、ECは250μS/cm以下の最小値が観測された後、増加し始めるが、回復には数日間の時間を要した。上流ほどECの回復速度が早く、下流に近づくにつれて回復は緩やかに起こっている。連動してCa2、Mg2、Clも増減しており、地点によってはNa、SO42も増減している。ECの変動は降雨に伴う溶存物質の流出が引き起こしているが、地点によってその大きさに差異が生じており、土壌成分が流出しているところと、していないところが存在することが分かった。

Ⅳ おわりに

 長期にわたって実施してきた調査結果を一度にまとめるには無理があり、必ずしも全体像を明らかにできたとはいいがたい。水文誌にも改善の余地があり、より詳細で精度の高いデータを収集しながら石垣島の水環境の現状を明らかにしていきたい。

参考文献

小寺浩二,米山亜里沙,飯泉佳子,寺園淳子(2009):石垣島諸河川の流域特性と物質流出特性,日本陸水学会講演要旨集.

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