日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S401
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学校教育・生涯学習における地理情報活用の一般化
*大西 宏治奥貫 圭一鈴木 允西村 雄一郎池口 明子
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抄録

1.シンポジウムの背景

 専門家以外が地理空間情報を活用して自由に主題図を作成したり,多様な地域活動に利用したりできるようになった,専門家ではない人たちが地理空間情報を活用するには,データとしての地理空間情報の幅広い公開,地理空間情報を扱うことのできるコンピュータの性能の向上と普及,そして誰でも容易に利用できるソフトウエアやwebサイトの開発が必要であった.

 1990年代半ばから地理空間情報を可視化するソフトウエアが個人プログラマーによっても開発されるようになってきた.たとえば,標高データを段彩したり3D表示したりして可視化できる「カシミール3D」がDAN杉本氏によって,国勢調査などの地域統計を使った主題図を作成するMANDARAが谷謙二氏により開発された.カシミール3Dは登山などの山を趣味をする人たちだけでなく,研究者などに,MANDARAは地域の統計を主題図にして可視化し検討することができるため,研究者だけではなく,学校教育などでも広く活用されている.

 スタンドアローンのソフトウエアだけでなく,Webを通じた地理空間情報の活用(WebGISなど)もさまざまな開発がなされていった.公的なものでいえば,e-STATやRESASがそれにあたるものである.また,都市の発展や地域の災害を考えるとき,旧版地形図が有効であることは広く知られていたが,入手するには国土地理院へ謄本交付申請を行うなど一定の手続きが必要で,活用が進まなかった.これに対して,谷謙二氏は手続きを取って旧版地形図を今昔マップというソフトウエアとweb版の今昔マップon the webを公開した.旧版地形図は地域の歴史と災害を考えるときにわかりやすい題材となり,学校教育も含め広く活用される地理空間情報のコンテンツとなった.地理総合の教科書の中に今昔マップに言及するものもある.

 このように,地理空間情報の活用の広がりは,専門家ではないユーザーが容易に利用できるアプリケーションの開発が必要不可欠であり,それらがフリーソフトとして提供されてきたことも活用の広がりを生んだ.

2.シンポジウムのねらい

 地理空間情報の一般社会への普及にソフトウエア開発などを通じて取り組んだ谷謙二氏は2022年8月に急逝した.MANDARAや今昔マップといった成果は地理学界のみならず,社会の大きな財産になっている.そこで,彼の成果を振り返りながら,学校教育や生涯学習を通じた地理空間情報の普及や活用の一般化について議論するとともに,そこから広がった地理空間情報の活用の広がりについて意見交換したい.またMANDARAや今昔マップはフリーソフトウエアという性格から谷氏単独の開発であり,継承は容易ではない.彼の成果のどのような側面を継承すべきか議論したい.

 シンポジウムの構成は,6つの発表と総合討論で構成される.発表1では大西(富山大)が本シンポジウムの趣旨を説明する,発表2では谷謙二氏と同時代にプログラム開発を行ってきたカシミール3Dの開発者である杉本(個人開発者)がこれまでの開発を説明する.発表3~4では,西村雄一郎(奈良女子大),鈴木允(横浜国大)がMANDARAや今昔マップの開発や学校教育での活用について振り返る.発表5では,小口高ほか(東京大)が紙地図の資産をいかにして継承して活用することができるのか,CSISの取り組みを説明する.さらに,発表6では地理空間情報を市民による協働で構築するという新たな展開について説明する.コメンテータとして岡本耕平(愛知大)が,これまでの報告から,今後残された課題と今後の可能性について整理する.このコメントを踏まえ,フロアを交えて総合討論を行う.

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