日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 511
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業態転換を伴った百貨店撤退跡地の利活用に関する研究
―そごう八王子店の跡地利活用を事例に―
*髙橋 雅也
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抄録

1.はじめに  

 本研究では、JR八王子駅の付帯施設(駅ビル)に出店していた百貨店「そごう八王子店(以下、そごう)」(1983年~2012年1月)と、その後継施設であるショッピングセンター(以下、SC)「CELEO八王子北館(以下、CELEO)」(2012年10月~)を検討対象として、そごうから「CELEO」が開業するまでの業態転換の経緯および「CELEO」開業後の経営実態について調査し、大都市郊外における、SCという業態による百貨店跡地の利活用の可能性について検討することを目的とする。本研究の対象としてこの事例を選んだ理由は2点あり、1つはそごう時代の大規模な売場面積(地下1階から10階までで、閉店発表時点で31,800㎡)が減ることなくSCとして引き継がれた点、もう1つは首都圏郊外の交通結節点に立地していたそごうとしては比較的早い時期に撤退したために新施設の営業年数が一程度経っており、現在の経営実態の評価等に活かせる点である。本研究ではまず、百貨店撤退跡地の利活用の実態に関する先行研究を整理する。次に、行政資料等を用いた調査ならびに八王子市、地元商工会議所、地元商店街振興組合への聞き取り調査を実施し、そごうの撤退からCELEOの開業に至るまでのプロセスを整理する。そして、CELEOの経営主体である(株)JR中央線コミュニティデザインに対して聞き取り調査を行い、同施設の経営実態や利用状況などについて精査した。

2.百貨店撤退跡地の利活用に関する先行研究  

 百貨店をめぐっては、生活様式の変化などを背景要因として経営環境が悪化し、1990年代以降、撤退や破綻が相次いだ。とりわけ2000年7月には「そごう」が経営破綻し、「都市の顔」であった百貨店が消失する事態が全国各地で発生した。中条(2007)によれば、2000年中に閉店した「そごう」は全国14店舗に上る一方、百貨店を後継業態とし得た後継施設は5施設に過ぎない。また箸本は2012年に全国133施設の百貨店撤退後施設の利活用状況を調査し、百貨店として再生した事例が6%に留まる一方で、「ディスカウントストア・専門店ビル」などSC業態として再生した事例は24.1%に上ることを示した(箸本・武者,2021)。これらの結果は、百貨店の後継施設として、売場生産性に勝るSC業態の優位性を示唆したものといえる。

3.業態転換のプロセスおよび現在の経営 

 2011年2月にそごうの営業終了が発表されて以降、JR八王子駅の駅ビルを管理するJR東京西駅ビル開発株式会社(現・株式会社JR中央線コミュニティデザイン)は、後継テナントの調整に乗り出した。出店を希望する百貨店事業者も存在したが、低層階のみの出店や賃料の値下げなどの要望を持ち出され、経営面での折り合いがつかず、出店は見送られた。その他にホテルや住居、シネマなどの入居が検討されたが、法律やコストなどの面で壁があり実現されなかった。やがて駅ビル管理会社の親会社であるJR東日本が新施設の開業準備を推進し、後継施設の業態がSCに決定した。このようにして2012年10月にCELEOが開業した。SCは百貨店に比べて内装や人員にかかるコストを抑えられるため、売場生産性が高まるとされる。閉店直前のそごうの売上高はおよそ年220億円だったが、開業から10年程度経過したCELEOは年250億円程度の売上高を概ね維持している。両者の売上高が同程度の金額であってもCELEOの経営が比較的安定していることの背景には、営業に必要なコストの差が関係しているといえよう。加えてCELEOの経営戦略として、①定期借地方式を通じた入れ換えによるテナントの鮮度維持、②商圏の主要客層(40~50代のファミリー層)に合ったテナントの選択、③商圏が競合する立川の百貨店との価格帯での差別化、④坪効率の高い飲食店比率の向上などが挙げられる。こうした柔軟性もまた、テナントミックスの自由度が高いSCの優位性を示すものである。

4.考察  

 本事例より、①営業に必要なコストの差および②テナントミックスの自由度という2つの点が、SCが百貨店に対して持つ優位性を構成していると指摘できる。このことは、百貨店の撤退が相次ぐ昨今、跡地の持続的な利活用方法の検討や百貨店が担ってきた「都市の顔」という役目を継承するなどという意味において、SCという業態が持つ可能性を示すだろう。

文献 

中条健実 2007.駅前大型店の撤退と再生-地方都市の旧そごうの事例.荒井良雄・箸本健二編『流通空間の再構築』177-196.古今書院.

箸本健二 2012.大型商業施設の撤退とダウンサイジング型再生の可能性.箸本健二・武者忠彦編『空き不動産問題から考える地方都市再生』79-99.ナカニシヤ出版.

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