日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 451
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東京都市圏におけるモバイルプラネタリウム会社の事業実績からみた小学校団体利用の地理的選択
*井内 麻友美
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抄録

1. はじめに

文化公共施設のひとつであるプラネタリウム施設は日本において340館近く現存し,その9割が公営の施設である. プラネタリウムは,地方自治体の所有する科学館・博物館・図書館・児童館・公民館といった公共施設内に設置され,設置年代と立地の傾向は,1970~80年代は都市公園内および住宅地内に,1980~90年代は公共施設に隣接して立地し,2010年代は駅前が比較的多い(井内,2019). 文化公共施設を拠点とした地域づくりが進むなか,公共プラネタリウム施設でも,文化・観光・生涯学習など多様な利用が行われると共に,根底にある学校教育利用も継続しており,各自治体のプラネタリウム施設において,理科学習を補填する「学習投影」と呼ばれる団体投影がある. 文化公共施設で提供されるサービスは,利用者がそこに行くことで利用者が享受する.学校教育利用の場合,自治体内で移動手段(借り上げバス等)を手配し,公平性を担保して運用される.しかし,利用者がサービスを受ける場所へ行くことが難しい場合,利用者の元に事業者がモノを積載してサービスを提供する移動型のサービス提供が試みられてきた.これは利用しやすさ(利便性)の不平等に対するひとつの解決策である.地理学においては,行商やフードデザート問題に対する移動販売の実態などの研究が積み重ねられている(伊藤,2015;岩間ほか,2016など).プラネタリウムのサービスでも,2000年代後半からエアドームを用いて星空を提供する移動業態(通称「モバイルプラネタリウム」)が発生し,事業会社が開業した.

2. 研究目的

本研究では,東京都市圏で事業展開するモバイルプラネタリウム事業会社の事業実績から,特に小学校の利用に着目し,(1)小学校のモバイルサービス利用状況(2)事業者の受注選択状況,および(3)既存の公共プラネタリウム施設の立地とモバイルサービスを選択した小学校との関係,を明らかにすることを目的とする.

3. 調査の手法

東京都内に事業所があるモバイルプラネタリウム会社2社(A社:江戸川区内,B社:国立市内)を対象に,2社が公表する事業実績より,事業を実施した小学校名をまとめ,GISを用いて分析を行った.また既存プラネタリウム施設と各小学校との距離を測り,その関係を考察した.

4. 結果

研究の結果,A社とB社でサービスを提供する範囲が明確に分かれた.その理由は,事業所から受注の小学校までの移動距離と経営方針の表れと考えられる.A社の2013年と2020年の実績では範囲の変化があり,受注の集約化がみられた。小学校と既存プラネタリウムとの立地の関係は,比較的既存施設までのアクセスが難しい小学校がモバイルプラネタリウム事業を利用していることが読み取れた.

(文献)

伊藤千尋2015.滋賀県高島市朽木における行商利用の変遷と現代的意義.地理学評論 88: 451-472.

井内2019a.日本における公営プラネタリウム施設の立地と活用.日本地理学会発表要旨集 96: 214.

岩間・田中・駒木・池田・浅川2016.地方都市における低栄養リスク高齢者集住地区の析出と移動販売車事業の評価.地学雑誌 125(4):583-606.

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