日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 116
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山越え気流に対する山脈の幅の効果
*浅野 裕樹日下 博幸
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抄録

おろし風とは山脈の風下側に発生する強風のことで,建物倒壊などを引き起こすことがある.おろし風は,100 kmを超える広い山幅の山脈(例えば,ロッキー山脈)でも,10 km未満の狭い山幅の山脈(例えば,知床連山)でも発生する.山脈の山幅は山岳波の発生・伝播・砕波に強く影響することが知られており,山岳波との関連が強いおろし風にも山幅が影響することが予想される.そこで本研究はおろし風に対する山脈の山幅効果を理想化シミュレーションにより明らかにすることを目的とする.さらには,Long (1955) の式を解析的に解くことで,シミュレーション結果を理論的に説明する.

 数値気象モデルCloud Model 1を使用し,3次元理想化シミュレーションを実施した.山脈はEpifanio and Durran (2001) と同じ関数で与え,山脈の最大標高と山幅を変えた場合の山越え気流の応答を調査した.具体的には,スコラー数で無次元化した山幅が2.5と10.0の場合について,同様に無次元化した山の高さを0.1から1.5まで変化させた.風速とブラントヴァイサラ振動数はそれぞれ10 m s -1,0.01 s -1 とし、一様に与えた.

 無次元山高さが0.7のとき,無次元山幅が2.5の場合では砕波後におろし風が発生しなかった.それに対し,無次元山幅が10.0の場合では砕波後におろし風が発生した.つまり,狭い山幅はことが砕波後のおろし風の発生を抑制した.一方で,無次元高さが0.6のとき,無次元山幅10.0, 2.5の両方でおろし風は発生せず,無次元高さが0.8のとき,両方の山幅でおろし風が発生した. 砕波によるよどみ層を上部境界条件としてLong (1955) の式を解くことで,よどみ層下を通る流線の鉛直変位とその下の地形の高さとの関係式を導出した.この関係式により,無次元山高さが0.7で無次元山幅が2.5の場合,風下斜面上の砕波域下で流れが減速するためおろし風が発生しないことが示された.一方で,無次元山高さが0.7で無次元山幅が10.0の場合,風下斜面上の砕波域下で流れが加速するためおろし風が発生することも示された.そして,山越え気流の振る舞いの違いは鉛直波長の違いによるものであることが明らかになった.具体的には,山幅が狭くなると山岳波の鉛直波長が長くなり,それによって砕波域下の鉛直変位や山の高さが鉛直波長に対して相対的に小さくなることで,風下斜面上で常流のような流れになることが解析解により示された.

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