主催: 日本臨床薬理学会
【背景】デクスメデトミジンは中枢性α2受容体作動作用による鎮静作用および濃度依存性の抗炎症作用を有する薬剤である。デクスメデトミジンによる術後の鎮静効果と睡眠の質改善効果には個体差が存在する。鎮静効果の個体差は血中デクスメデトミジン濃度のみでは十分に説明できない。一方、全身炎症による睡眠の質への影響が近年示唆されており、デクスメデトミジンによる睡眠の質改善効果は抗炎症作用に基づき濃度依存的であると想定される。本研究では、抗炎症作用に関連するデクスメデトミジンの血中濃度および血中曝露量に着目し、それらと睡眠の質改善効果の個体間変動の関連を検証した。
【方法】本単施設前向き観察研究では、浜松医科大学医学部附属病院の集中治療室で術後鎮静に対して、デクスメデトミジン注射液を12時間以上持続静注した33名の患者を対象とした。デクスメデトミジンは至適鎮静レベル(Richmond Agitation-Sedation Scale:-2-0)を維持できる投与速度にて調整した。投与開始3、6、9および12時間後に採血を実施し、血中デクスメデトミジン濃度を測定した。また、覚醒後には睡眠の質をRichards-Campbell Sleep Questionnaire (RCSQ)を用いて評価した。RCSQ≧76 mean mmで良質な睡眠と判断し、睡眠の質と投与開始12時間後の血中デクスメデトミジン濃度(Cdex)および時間曲線下面積(AUC0-12)の関連を評価した。さらに、ROC曲線を用いて尤度比が最大となるカットオフ値および曲線下面積(ROC AUC)を算出した。
【結果】Cdex、AUC0-12の中央値[四分位数] はそれぞれ、0.52 [0.37, 0.64] ng/mLおよび4.3 [2.9, 5.6] ng・h/mLであった。RCSQは66 [32, 88] mean mmであり、RCSQ≧76の患者(n = 19)のCdex(0.67 [0.48, 1.11] ng/mL)およびAUC0-12(5.8 [3.9, 10.5] ng・h/mL)はRCSQ<76患者(n = 14)のそれら(Cdex:0.43 [0.35, 0.59] ng/mL、AUC0-12:3.6 [2.6, 5.2] ng・h/mL)と比較して高値を示した。さらに、CdexおよびAUC0-12のカットオフ値として0.55 ng/mL(ROC AUC = 0.77)および4.3 ng・h/mL(ROC AUC = 0.76)を算出した。
【結論】至適鎮静レベルの術後患者において、デクスメデトミジン濃度依存的な睡眠の質改善効果が示唆された。血中濃度を指標としたデクスメデトミジンの投与速度調整は睡眠の質改善に有用となる可能性が考えられた。