主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
1 はじめに
多摩ニュータウンでは居住者の高齢化,人口減少,住宅の老朽化,学校の統廃合,公共施設の遊休化・閉鎖など多くの問題が発生している(宮澤 2006).本研究では多摩ニュータウンの中でも最も初期に開発された諏訪・永山地区を研究対象とし,現在の高齢人口比率についてまとめるとともにArcGISのNetwork Analystツールを用いて避難所までの到達圏解析を行った.
2 対象地域における高齢者人口比率
高齢者分布の把握を行うために2015年国勢調査における基本単位区データを利用した.65歳以上人口割合は町丁目によって大きく異なり,割合が最も低い小地域は永山1丁目の16.1%で最も高い小地域は諏訪4丁目の47.6%,人口データがある小地域の平均は31.4%となった.京王/小田急多摩センター駅周辺の商業地域やマンション建て替え事業が行われた地区では割合が低く,駅から離れた低層住居地域では割合が高い傾向にある.
3 到達圏解析
対象災害は多摩東部直下地震とした(東京都総務局総合防災部防災管理課 2022).人口データとして基本単位区データ,避難施設データとして国土数値情報の避難施設データ,道路データとしてArcGIS Geo Suiteをそれぞれ使用した.避難施設データには公開当時には作成されていなかった現在の避難所を追加した.道路データには歩道と,航空レーザ測量によって作成された基盤地図情報の5mメッシュの数値標高モデル(DEM)をそれぞれ追加し,道路データの端点に標高を追加することで道路の高低差と傾き,斜距離を計算した.加えて高橋ほか(2014)より道路の傾きを変数とした健常者および高齢者の歩行速度を計算し到達圏の解析を行った. 図1は健常者を対象とした歩行速度で,歩道や標高を追加しない場合の到達圏解析である.避難時間10分以内人口カバー率は95%となった.図2は高齢者を対象とした歩行速度で,歩道や標高を追加した場合の到達圏解析である.避難時間10分以内人口カバー率は60%となった.諏訪・永山地区は近隣住区理論に基づいて計画され,現在でも防災や行政に適した構造になっていると考えられる.一方で,歩道などの道路の高低差は,居住者の高齢化が著しく進んでいる諏訪・永山地区の避難について考えると大きな懸念を残している.