日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P030
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思想の越境
日本におけるスローフード運動の「味の箱船」活動の事例から
*秋山 唯池田 真利子
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抄録

日本国内の世界遺産研究では,保護および継承の重要性は多数論じられている一方で,その実践方法については課題が山積している。世界遺産の登録の意義やトップダウン型によるその方法についても,問題点が指摘されている(鈴木, 2011)。また,世界における無形文化遺産には,2016年に登録されたドイツの「協同組合の思想と実践」のように,思想,哲学,価値観的なものがある。このような内容の無形文化が国を超えて共有されていくことにもまた,課題があるといえる。世界に広く波及している食文化保護の動きのひとつに,「スローフード運動」の主要な活動のひとつである「味の箱船」活動がある。イタリアで生じた草の根活動である「スローフード運動」は現在160カ国以上においてその思想を波及させており,日本国内でも2004年から活動が継続されている。本研究では,「スローフード運動」の思想が越境する点に注目し,その現状を把握することを目的とした。

「スローフード運動」というひとつの思想が広がっていく様子について,時間軸と地域軸に基づき3期に分類して概観した結果,思想の広がりには拡大期と縮小期のようなものがあること,そこに関わる地域やアクターにも各時期の特徴があることが見出された。「味の箱船」に登録される品目およびその地域は,活動的なアクターの特徴と深く関わっていたことから,思想の共有および継承にはアクターが重要であることが捉えられた。すなわち,運動や登録の場面にどのようなアクターが生じ,彼らがどのようにその思想や価値を理解し,共有していくかということが,思想が越境または波及していく上で重要であると考えられる。

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